俳優として映画やドラマで活躍してきた伊勢谷友介氏。日本のエンタメ業界に欠かせない存在となっていたが、2020年9月に大麻取締法違反容疑で逮捕されて以降、活動を自粛してきた。
そんな伊勢谷氏が、自身の歩みや事件について率直に語った著書『自刻像』(文藝春秋)を上梓した。ここでは同書より一部を抜粋して紹介。大麻取締法違反容疑で現行犯逮捕されたとき、彼の身には何が起こっていたのだろうか?(全2回の1回目/2回目に続く)
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現実とは思えなかった家宅捜索
2020年9月8日の午後3時すぎ。ちょうど映画撮影の休日だったこの日、気分転換にスケートボードをしに出掛けようとしていた時だった。
玄関を出ると、外に待ち構えていたのは10人以上もの男たち。まるで映画やドラマのワンシーンを切り取って貼り付けたかのような違和感のある光景。警察官だと気づくのに、時間はかからなかった。
「伊勢谷友介さんですね」
捜索差押許可状を見せられ、彼らの目的が分かった。
「警視庁組織犯罪対策5課です。これより家宅捜索を行います」
そのまま部屋に戻り、すぐに家宅捜索が始まった。
リビング、寝室、クローゼット。捜査員は手分けして各部屋に入り、棚や引き出しをかたっぱしから開けていく。きれいに片付いていたはずの部屋は、たちまち、引き出しから取り出された物で溢れかえった。
ほんの数分前まで、1人でくつろいでいたこの部屋が、自分が見たこともない空間になっていく。でも、僕が部屋の中の物に手をつけることは一切許されない。
部屋の隅に立って、警察官の動きを見ているうちに、めまいを覚えた。目の前で起きていることは、現実のものなのか。
「テーブルの引き出しです」
僕はそう言った。
「自分だけは大丈夫」どこかでそう考えていたのかもしれない
「〇時〇分、大麻取締法違反の現行犯で逮捕します」
ドラマでよく出てくるこんな言葉があったのかどうか分からない。気づくと、僕の手には手錠が掛けられていた。乾燥大麻4袋を所持していたという容疑だった。
それまでも、俳優やミュージシャンなど芸能界の人が大麻で逮捕されていたことは、もちろん知っていた。その都度、不祥事として大きく報じられ、出演映画が公開中止になったり撮り直しを余儀なくされるなど、社会的に影響を与えることも当然、認識していた。
でも、自分だけは大丈夫。捕まるわけがない。どこかでそう考えていたのかもしれない。
今思えば、本当に浅はかだった。