俳優として映画やドラマで活躍してきた伊勢谷友介氏。日本のエンタメ業界に欠かせない存在となっていたが、2020年9月に大麻取締法違反容疑で逮捕されて以降、活動を自粛してきた。

 そんな伊勢谷氏が、自身の歩みや事件について率直に語った著書『自刻像』(文藝春秋)を上梓した。ここでは同書より一部を抜粋して紹介。映画の撮影現場で迫真の演技を見せた伊勢谷氏に、先輩俳優・佐藤浩市が取った“驚きの行動”とは?(全2回の2回目/1回目から続く)

俳優・伊勢谷友介さん(撮影:新田桂一)

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「伊勢谷君の代表作にする」と言ってくれた根岸吉太郎監督

 俳優としてこれまで50作近い映画に出演してきた。中でも思い出深いのは、2006年公開の『雪に願うこと』の現場だ。

 僕が演じたのは主人公の矢崎学。東京で一時はビジネスで成功をおさめるも、やがて経営していた会社は倒産。妻から絶縁され、派手な暮らしも友人たちからの信頼もすべて失い、無一文で故郷の帯広に戻る。その学を迎え入れたのは、ばんえい競馬の厩舎を細々と運営する兄・威夫。学は、兄のもとで厩務員見習いとして働き、成績不振で処分される運命の馬・ウンリュウに自分を重ね合わせ、自分の弱さと向き合いながら新たな一歩を踏み出していく。

「伊勢谷君は、東京っぽい雰囲気がある上に、なんとなくいい加減な感じがするから、学役にぴったりだよね」

 根岸吉太郎監督は、僕をそう評してくれた。

「俺が、この作品を伊勢谷君の代表作にするから」

 そんなことまで言っていただけて、俳優として嬉しくないわけがない。必ず監督が求めるパフォーマンスを見せようと、かなり気合いを入れて撮影に臨んだ。

 共演者には、佐藤浩市さん、小泉今日子さん、津川雅彦さん、山﨑努さんをはじめ、そうそうたる先輩方がそろっていた。しかし、萎縮してしまうと、僕自身の芝居だけでなく映画全体に悪い影響が及んでしまう。だから、相手が誰であろうと、実世界での僕の感情を入れないように、あくまでも学というキャラクターが作品上で相手に抱いている感情で接しようと意識していた。