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各国で高評価を得た“本当に観るに値する映画”……少女の孤独が解放されるひと夏の物語『コット、はじまりの夏』

2024/01/19

source : 週刊文春CINEMA オンライン オリジナル

genre : エンタメ, 映画

note

 この映画は言葉よりも、言葉と言葉のあいだにあるものから多くをくみ取ろうとする。むしろ、そこにこそ本当の価値があると考えているみたいに。

徹底した立ち位置だからこそ伝わるもの

 実際、この映画が丹念に映し出すのも、声に出してあえてだれかに話さないような、些細なできごとの数々だ。

 井戸から水をくみ、喉を潤す。

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 料理をし、タマネギを切り、涙を流す。

 髪の毛をとかしてもらう。1回、2回…100まで数え上げながら。

 そういったなにげない、つい見過ごされがちなできごとのひとつひとつが、ゆくゆくはコットを大きく変える。それらの、なんと愛おしいことか。

© Inscéal 2022

 もしかしたらこういったテーマ――ささやかなものごとの愛おしさ――は、映画や小説なんかでこれまでに何度も描かれてきたことかもしれない。でもそれを感動的に伝えうるのは、本作が徹底して見過ごされがちなものの側に立ち、声にならない声を、声にして語られないできごとを、丁寧にすくい取っていくからだろう。

 やがて夏は終わる。

 この映画が居場所のない少女を疎外感や孤独感の中から救い出すとき、同じような寂しさや悲しみを感じたことのある、決して少なくない人たちの心も優しく、穏やかに慰撫される。

 

STORY
口下手な少女コットは、母が出産するまでの夏休みの日々を、親戚夫婦のもとで過ごすことになる。優しい妻・アイリンと無骨な夫・ショーンからの愛情を受け、これまでに経験したことのない喜びを得るコット。だが彼らの親密な時間は、もうすぐ終わりを迎えようとしていた――。

STAFF&CAST 
監督・脚本:コルム・バレード/出演:キャリー・クロウリー、アンドリュー・ベネット、キャサリン・クリンチ、マイケル・パトリック/2022年/アイルランド/95分/配給・宣伝:フラッグ/1月26日(金)公開

各国で高評価を得た“本当に観るに値する映画”……少女の孤独が解放されるひと夏の物語『コット、はじまりの夏』

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