今年の大河ドラマ『光る君へ』の主人公は、『源氏物語』の作者・紫式部である。戦国時代や幕末を舞台にした作品の多い大河ドラマで、貴族が権力を握った平安時代がとりあげられるのは珍しい。脚本を手がける大石静は、《戦がない時代。男性のエネルギーは女性に向かっていったのではないか。平安時代のセックス&バイオレンスを描きたい》と一昨年の制作会見で抱負を語っていた(「ORICON NEWS」2022年5月12日配信)。
『源氏物語』でも主人公の光源氏は女性に向かってエネルギーを注ぎ続ける。そんな光源氏に、プレイボーイとして知られるある俳優も、《滅茶苦茶モテるんだけれど、唐突に振られたり、まずい相手に手を出しちゃったり、結構ダサい面があって共感できる。自分と似ているところがあるのも大きいかな。この女と決めたら猪突猛進で、ひれ伏しても、ひざまずいてでも、手に入れようとするじゃないですか。僕も同じです(笑)。普通、男って、体面とかプライドとかがあって、そこまでできないでしょ?》と、強いシンパシーを表明していた(『日経おとなのOFF』2008年6月号)。
プレイボーイ・石田純一が70歳に
その俳優とは石田純一だと言えば、「なるほど」と大方の人は納得されるのではないか。先に引用した記事で石田は、『源氏物語』を自分にとってトルストイの『戦争と平和』と並ぶ文学史上最高の恋愛小説だと評し、その理由を《ボーイミーツガールみたいな噓っぽいドラマツルギーじゃなくて、そこには傷口をすり合わせるような壮絶なリアリティがあるから。人間の本性をあぶり出す、鳥肌が立つような現実感覚》と説明している。
きょう1月14日に70歳の誕生日を迎えた石田だが、『源氏物語』に見出した「傷口をすり合わせるような壮絶なリアリティ」には自身の人生観を重ねるところもありそうだ。その証拠に、いまから30年前の雑誌での対談ではこんなことを語っていた。
《みんなの興味のあるもの、たとえば家庭とか将来とか、言い方は悪いけれど、小市民的なものに毒されちゃいけないといつも思ってる。基本的に冒険とか荒々しさ、ダイナミックさとかが好きなんですね。体の中にそっちのDNAをもっている》(『婦人公論』1994年10月号)
じつはこのときの対談相手は前出の大石静だった。大石はこの年、石田の出演したドラマ『長男の嫁』を手がけ、ヒットさせていた。彼女は石田の上記の発言を受け、《私もわかる。既成の価値観にとらわれない「私にとっての大事なもの」ってみんなの中にあるはずなのね。ところが漠然とした幸せとか、ポワンとした雰囲気の中に紛れてそれが見えない。そのまま生きて終わってもいいんだけど、やっぱり自分にとって何が大事か、「これだけは!」っていうものを選択すべきときはあるわよね》と同調している。対談では続けてこんなやりとりもあった。