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犬食禁止法が成立するまで

 では、なぜ今回、犬食禁止法が成立したのだろうか。韓国メディアによれば、法律化の動きは文在寅政権の時代から始まった。2021年9月、文大統領が犬の食用に慎重になるよう周囲に指示。22年5月に尹錫悦政権が発足すると議論が再開された。23年6月、議員立法の提案が始まり、計8案が出そろった。23年12月、法案が一本化され、今年1月、めでたく法制化と相成った。

 大韓育犬協会など、犬肉に関係する団体は「飼育中の200万匹の食用犬をどうしてくれるんだ」と怒り狂い、犬食禁止法を推進した国会議員の落選運動を行うと息巻いたが、議員たちは超党派で圧力をはね返したという。

 この法制化を巡っては、様々な解釈が乱れ飛んでいる。間違いないのは、韓国内での「動物愛護」を巡る雰囲気の高まりだ。食生活が豊かではなかった中世から戦乱が続いた近現代にかけ、韓国では、まず人間が生き残ることが最優先されてきた。犬を「補身湯」などにして貴重な栄養源としたのが、その象徴だ。犬をペットにする習慣も、1980年代ごろまでは富裕層などに限られていた。

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韓国における「ペット観」

 ところが、最近では、韓国語で言うところのペットの「位相(地位)」が確実に上がっている。韓国では長らく、ペットを「愛玩動物(エワン・トンムル)」と呼んできたが、最近では「伴侶動物(パルリョ・トンムル)」に変化した。ペットを家族の一員と位置付ける動きは数年前からあり、2020年から22年にかけての新型コロナウィルスの感染拡大で一気に加速した。

 最近でも、ちらほらと、「補身湯」の看板を下ろす食堂が出ているという。相変わらずの食糧難で、犬肉が「甘肉(タンコギ)」として珍重されている北朝鮮とは対照的な動きだ。

昨年閉店した、ソウル市内の補身湯(ポシンタン)の食堂。うっすらと朱色で「ポシンタン」という看板の文字の跡がみえる

 韓国では犬に比べて、猫は「目が冷たい」「何を考えているのかわからない」などという冷たい評価を受けていたが、最近は猫をペットにする人も激増している。こうしたペットに対する見方が、「食べるなんてとんでもない」という声を後押ししたのは間違いない。今回、韓国メディアは、犬食禁止法を好意的に伝えた欧米メディアの報道を詳しく転電したが、国際社会の視線を気にしがちな、韓国の空気も一役買ったと言えるだろう。