――「かみ合わない」?
漫画では聡実くんの心の声があり、それが狂児と聡実の噛み合わなさを修復して、二人の間にできた瞬間を治癒しています。でも、映画ではいわゆる「解説」はなく、映像のなかでふたりの関係性や気持ちの変化を見せていかなければいけません。
本来なら、芝居が噛み合い、テンポやリズムが生まれ、芝居場は乗っていきますが、今回はそれをしない。これは役者にとって、とても大変でした。
敬意をしっかり持ち、向き合い続けました
――テンポやリズムを意識的にずらしたということですか? なんのために?
本作では「かみ合わない」のが完成形だからです。『初めて会ったヤクザにいきなりカラオケに連れてこられた15歳』という状況で、両者の会話がかみ合うはずがないのです。台本も台詞も存在し、どうすれば良いか分かっている状況で「かみ合ってはいけない」というオーダーはとにかく大変でした。
――原作では、中学生の聡実くんとヤクザである狂児が一緒にカラオケボックスにいる、つまり「かみ合わないふたり」が同軸に存在することが、前提条件になっています。「ふたりでいる」という設定を「かみ合わない」ものにするには、デフォルトを崩す必要があるということですか?
『カラオケ行こ!』は現実にはあり得ない劇的な設定を、自分事のセリフで表現することで「なさそうで、ある」と感じられる絶妙なリアリティを生み出しています。その『カラオケ行こ!』の世界観のなかにしかないリアリティを本作ではどのように表現していくか。そこも含めて、全部署が原作に対する敬意をしっかり持ち、「映画化」と向き合い続けました。
俳優、制作陣に共通した思い
――マンガの世界そのままに、かみ合わないふたりがかみ合っているように見えるのが実写化で、かみ合わないことを追求した、山下監督の新挑戦が今回の映画化と考えればよいのでしょうか。いつもの綾野さんとは違った、「かみ合わない」演技にも注目ですね。