鶴の恩返しや分福茶釜。人間に助けられた動物が恩を返す物語は、昔からある物語の典型的なパターンだ。けれど、令和の時代では根強い人気を誇るあの動物が、なんと超現代的な方法で恩返しをしてくれるらしい。
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物語の舞台はとある同棲中カップルのお部屋。そこで暮らすのはシュウくんとアヤちゃん、そして飼い猫のミケ。シュウくんとアヤちゃんは仲良しだけど、仕事や寝るタイミングが合わず最近はすれ違ってばかり。でも、大丈夫。いつも欠かさずに作り置きされている美味しいごはんがあるから。
「アヤちゃん、忙しいのにありがとう」「シュウくん、私の食の好みわかってる……」と、どんなにすれ違っても美味しい手作りごはんさえあれば、2人の心はぐっと縮まる。あれ、この手作りごはんって誰が作っているのだろう? とお思いのあなた。実はこれこそが、とある動物の“恩返し”なのだ。
その動物の正体こそ飼い猫のミケ。ある夜に負傷して道端で弱っていたミケは、偶然その前を通りかかったシュウくんとアヤちゃんに助けられる。この時点ではシュウくんとアヤちゃんはあかの他人同士だったけれど、ミケを一緒に助けたことをきっかけに恋人同士となり、同棲を始める。
まさに恋の立役者ともいえるミケだが、命を助けてもらった恩返しはここからが本番。「あの夜の恩を返したい!」の一心で2人が家を出るたびに人間に変身し、冷蔵庫の残り物やスーパーのセール品を駆使し毎日の献立を考え、2人が戻ってくる前にごはんを完成させるのだ。
まるでプロの家事代行がごとき手際の良さで同時に料理を進行し、あっという間に主菜と副菜、そして汁物までバランスよく完成させるミケ。しかも、手がける料理はタッパーに入れておくだけで簡単に完成するニンニクキュウリや、フライパン一つで仕上がるトリナスポン酢など、食材もさることながら料理の工程がとってもお手軽。思わず今日の夕飯のメニューに加えたくなるほどだ。
令和の恩返しとなると、存在するだけで癒しを与えてくれる猫が、美しい布でも茶釜でもなく、“プロ並みのスピードとクオリティの料理”という形で人に恩を返す。こんな猫の手なら本当に借りてみたいものである。そんな令和時代の新たな動物の恩返しを描いた本作の名は、『にゃーの恩返し ~2人と1匹のウチごはん~』(山崎紗也夏著)。
皮肉にもすれ違い生活のおかげで、“ミケの恩返し”という名の美味しいごはんをお互いが作ったと勘違いし、なんだかんだ円満な同棲生活を送るシュウくんとアヤちゃん。そんな2人の暮らしをそっと見守りつつ、今年はミケのレシピで健康的な食卓にチャレンジしてみたいものだ。