トランプの持ち技が炸裂した「チビでデブ」
金からしてみれば、アメリカに対抗するための英雄的な行動を茶化されると同時に、自分の人生や心の奥底まで射貫いてくるようなあだ名をつけられたのだ。トランプのペーシングによって、両者の心が「完全に通じあった」ところで、いわば「仲間同士」の褒め殺しと中傷合戦がはじまった。
トランプ(以下ト)「北朝鮮の金正恩はとても賢く、理性的な決断をした」(2017年8月16日)
金正恩(以下金)「米国の老いぼれの狂人を必ず火で罰するであろう」(9月21日声明、朝鮮中央通信)
ト「自国民を飢えさせることも殺すこともなんとも思わない明らかな狂人は、かつてないほどに試されるだろう」(9月22日ツイッター)
金「老いぼれ」(2017年11月12日)
ト「金正恩はどうして私を老いぼれと呼んで侮辱するのだろうか。私は彼を『チビでデブ』なんて呼んだことないのに」「まあいい、私は彼の友達になろうと一生懸命努力している。いつかその日がくるかもしれない」
Why would Kim Jong-un insult me by calling me "old," when I would NEVER call him "short and fat?" Oh well, I try so hard to be his friend - and maybe someday that will happen!
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 2017年11月12日
友達になろうとしてきたと小学生みたいな言い方をするトランプの細かいテクニックだが、「呼んだことないのに」といいつつ「チビでデブ」と言ってしまっているレトリック「逆言法」もトランプの持ち技だ。
核ボタンというビジュアルにはもっと大きなビジュアルで切り返す
金「(核兵器発射のボタンは)常に私の机にある」(2018年1月1日新年の辞)
ト「自分の核兵器ボタンの方がはるかに大きく、強力だ」(2018年1月3日ツイッター)
ばかげたやりとりだが、この返答もトランプ話法の持ち味がでている。核ボタンというビジュアルにはもっと大きなビジュアルで切り返す。ビジュアル的であるとは、感情を揺さぶる力、感情にじかに訴えかける力があるということだ。感情的になっている人間を説得するには、さらに大きな感情で揺さぶってやるほうが有効なのだ。そして、「私のはちゃんと動く」と投稿し、核ボタンの品質保証までしてくれる。
こうした口論のすえ、金正恩は「トランプ大統領と直接会って話をすると大きな成果を出せる」(2018年3月5日)と申し出、トランプは「よし分かった。北朝鮮の彼に『イエス』と伝えてください」(2018年3月8日)と答えた。
20年前の「北朝鮮とクレージーな交渉をする」発言
で、米朝会談はどうなるのか。約20年前のトランプ発言にこんなものがある。
「世界最大の問題は核拡散。私が大統領なら、北朝鮮とクレージーな交渉をする。北朝鮮は風変りだが、いかれた奴らではない。なんてったって核兵器を開発しているんだから(1999年6月21日NBCテレビ取材)
「クレージーな交渉」がいかなるものになるのか。世界が注視している。