「中国と協力するのは、もはやこれまでだ」
フレーミング技法は北朝鮮との調停役を買って出ている中国に対しても、一貫して使っている。大統領になる前の2013年に早々とこうツイートしている。「北朝鮮は中国に依存している。中国が望めば、この問題は簡単に解決できる」(2013年3月30日ツイッター)。選挙戦から現在まで、繰り返し述べているメッセージだ。北朝鮮問題は「中国次第」だと一方的に縛りつけたのだ。
そうすることで、北朝鮮問題が悪化したときは中国のせいにし、改善したときは中国を褒めてやるという、絶えず上から目線で対応できる。
北朝鮮がミサイル実験を繰り返していたときにも、中国に言及し、こんなツイートをしている。「中国が北朝鮮に対し激しく対応して、愚かなことをきっぱりとやめさせてくれるだろう」(2017年7月4日ツイッター)。期待に反し、問題が進展しないとみるや、「中国と協力するのはもはやこれまでだ」(2017年7月5日ツイッター)とつきはなす。さらに昨年11月30日、習主席による北朝鮮への特使派遣後も金正恩が挑発を繰り返したときには、「(中国特使は)リトル・ロケットマンに何の影響も及ぼさなかったようだ」とぼやいてみせた。いってみれば、自分が想定した結果を習主席が出すまで「ケツを叩き続けられる」ポジションに自らを置いてきた。一転して、進展をみせた今年3月10日には、「中国は今後も助けになる」と褒めてみせた。
今回の中朝会談までに、トランプはこんな風に中国を落としては持ち上げていたのだった。
2年前に金正恩をリスペクトしていたトランプ
といっても、そんな小手先とも思えるテクニックが国際社会を長年、翻弄してきた金正恩に通じるのか。トランプは金に対し、「マッドマン(狂人)」「悪いヤツ」「病気の子犬」などと罵詈雑言ばかりぶつけてきた印象があるだろう。核ボタンを持った金正恩をあんなに挑発して大丈夫か、とヒヤヒヤしていた人も多いと思う。それが一転、トランプに会談の申し込みをするなど、一体何が起こったのか。トランプの交渉テクニックを軸に経緯を振り返っておこう。
トランプはじつは国際社会で唯一、金正恩にリスペクトを示してきた指導者だ。大統領選時からその姿勢は変わらない。
2016年1月9日の演説ではこう発言している。
「彼のことを褒めてやらないといけない。どんだけの若者が、父親が25、6歳ぐらいのときに亡くなったあと、国家権力を継承できるか。タフな軍の将軍たちを掌握し、叔父を消し去り、こいつもあいつも消していった。彼は生半可じゃない。我々も彼にいい加減な態度では臨めない」
風変りな褒め方だが、ある種のリスペクトが込められている。それどころか、独裁者の子供として生まれた金の数奇な運命と彼の死闘にまで気持ちを寄せている。これはトランプ独自の心理操縦話法だ。誰であろうと、相手の心の周波数に絶妙に合わせていく。心理学でいえば、ペーシングと呼ばれる広範なテクニックの一つだ。そうして相手との信頼関係を築いたうえで、相手を交渉の舞台へリーディング(導き)していく。