子どもじみたツイッターに隠された戦略
トランプと金のやりとりを時系列で並べれば、ペーシングとリーディングの中身が手に取るようにわかる。
「彼と会談するのに何の問題もない」(2016年5月ロイター取材)
「こいつは悪いヤツだが、過小評価はしていない」(2016年2月CBSインタビュー)
「明らかに、彼は切れ者だ」(2017年4月30日CBSテレビ取材)
「彼と会談することは光栄だ」(2017年5月1日ブルームバーグ取材)
まず、相手へのリスペクトを何度も示すと同時に、導く先が会談であることを2016年段階から予告している。これもトランプ話法の特徴で、種も仕掛けもなく、落としどころを公然と明かすのだ。
そして、トランプは次のコミュニケーション段階に入る。
「北朝鮮がまたミサイルを発射した。こいつはほかに人生でやることがないのか?」(2017年7月4日ツイッター)
小国の指導者にすぎない金正恩に対して、大国の大統領が語り掛けた瞬間だ。二人はその後、「悪ガキ同士」のようなふざけた口論を開始した。奇妙に聞こえるかもしれないが、金正恩にとっては名誉なことだったはずだ。これまで現役の大統領が北朝鮮の指導者と面会したことも会話を交わしたこともない。それが上下関係がない対等な口喧嘩によって、いってみれば、トランプは金のステイタスを象徴的に大国の指導者レベルに押し上げたのだ。
リスペクトしといてからの挑発「炎と怒りに直面するだろう」
その後、一転してトランプは挑発モードに入る。
「彼らは世界がこれまで見たことのない炎と怒りに直面するだろう」(2017年8月8日)
「ロケットマンが自殺行為の任務を進めている」「我々は北朝鮮を完全に破壊するしか、選択の余地はなくなる」(2017年9月19日国連総会演説)
トランプの表現はアメリカ大統領のものというより、北朝鮮のプロパガンダ・テレビ放送のようだ。しかし、挑発しているようにみえて、じつはこれもペーシングの一種だ。表現のスタイル自体を北朝鮮の流儀に合わせている。つまり、互いに通じ合う関係になるためのテクニックである。
金正恩を「ロケットマン」呼ばわりする“ダブル・エンドル”の術
ロケットマンというあだ名もただの悪口ではない。二つの意味がある。ひとつは、ビジュアル化。ミサイル発射を繰り返す常軌を逸した金正恩の行動パターンをコミカルにビジュアル化している。一度このあだ名を聞けば、頭から離れない。核兵器をもった恐怖の存在は、この一単語によって道化師のような存在に矮小化されてしまった。トランプは敵にこれまで何十人とあだ名をつけてきたが、相手の優位性を一発で貶めてきた。あだ名の名人なのである。
もう一つは金正恩の本質を端的に物語化した。「ロケットマン」とはトランプが敬愛する歌手エルトン・ジョンの曲だ。この曲で歌われる人物の悲哀を、金正恩の人生に重ね合わせた。単語に両義的な意味を持たせる「ダブル・エントンドル=二重表現」もトランプの得意技である。