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有元 藤本さんも赤石さんも「何とも言えん」が口癖でしたね。何を聞いても、自分たちで調べて確信が持てない限りは「何とも言えん」と言われ続けた記憶があります。こちらは推測でいいから聞きたいんですけど、そこはすごく緊張感がありました。

山森 2022年の夏になって藤本さんたちが現場を自分の足で調査することができて、ようやく「実はそれほど大きな個体じゃなさそうだ」とか「食べるために牛を襲っているんじゃないか」ということがわかってきたんです。

有元 爪で傷つけられただけで食べられてはいない牛が結構いたので、最初のころは「ハンティングを楽しんでいる猟奇的なクマなんじゃないか」という人もいたんです。

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 あるいは、「牛を引き裂く巨大な怪物グマ」や「賢く、人間に目撃されずに移動する忍者グマ」など、人間の側が作ったいろんなイメージがあったんですけど、藤本さんたちの調査でひとつひとつ覆していった感じです。別に猟奇的ではないし、特別賢いわけでもないと。

山森 傷つけられただけの牛がたくさんいるのも、OSOは食べるために襲ったけど牛のほうが大きかったために、仕留めきれなかっただけなんじゃないか……と次第に「OSO18の実像」が見えてきた感じはありました。

牛を襲い続けたOSO18の姿(標茶町提供)

血まみれの牛の「死骸が消えた」

――取材を通じてOSOの存在を肌で実感した場面というのはありましたか。

有元 あ、最初にそれを感じたのは2022年7月11日の2件目の被害現場ですね。知り合いの酪農家の方から「またやられたぞ」と連絡を受けて、血まみれで横たわっている牛の死骸を初めて見たんですが、それがものすごく巨大なんですよ。こんなに大きいものを斃して食うというのは、いったいどういうクマなんだと初めてOSOの存在を実感しました。

山森 ただこのときは、「現場に人間の匂いをなるべく残さずに死骸を放置すれば、またOSOが戻ってくるんじゃないか」という藤本さんの作戦もあって、僕らは現場をあまり撮っていないんです。それで有元が赤石さんに「まだ近くにOSOがいる可能性あるんですか?」と聞いたら、あっさりと「いるんでないかい。そばに」と仰って(笑)。

有元 実際、翌日また酪農家の方から電話がかかってきて「死骸が消えた」っていうんですね。現場に行ったら、牧場関係者の方が「こっちに引きずられていった跡があるんだよ」と言いながら、血の跡が続いている沢の方に案内してくれようとするんですけど、僕はものすごく怖いんですよ。思わず「クマ、大丈夫ですか?」と映像の中で言っちゃっているんですけど、あれが一番近くでOSOの存在を感じた瞬間だったと思います。

――山森さんはどうですか? OSOの存在を感じた瞬間というのは?

山森 川沿いに残された骨だけになった牛の死骸を撮りに行ったことがあったんです。それでその牛の持ち主の酪農家の方に現場まで案内していただいたんですが「日が暮れると、このあたりは歩きたくない」って仰るんですね。家のわりと近くなんですけど。そのときの本当に怯えた表情を見て、初めて僕もOSOの存在を感じたような気がしました。