有元 事務所のある標津町と襲撃現場の標茶町方面を結ぶ道路は1本しかないので、出かけているなら、どこかですれ違うんじゃないか、と。
山森 見つかったところで当時の関係性では、何も教えてくれないだろうし、取材も受けてもらえないのはわかっていたんですけど、何かせずにいられなかったというか。有元は若いからいいんですけど、僕はいい年して、そんな取材してるのは恥ずかしいんですが……。
有元 でも、いい話ですよね。
山森 よくないよ!(笑)
「やっと撮れた」映像にアクシデント
――その状態から、どうやって藤本さんや赤石さんとの信頼関係を築いていったんですか?
山森 それはもう「ちょっとずつ」ですね。
有元 とにかく僕らは「撮りたい」わけですけど、あえて「撮らない」ことを大事にしました。例えばOSOの被害現場を撮るにしても、そこには藤本さんたちだけじゃなくて、役場の方や酪農家の方、猟友会の方も集まるわけです。そこにカメラが入ると、話せないことも出てきてしまう。だから、ここは撮ってもいいのか、撮らないほうがいいのか、藤本さんの助言に従いながら、とにかく無理強いしないことを心がけていました。
山森 あとは、ありがたいことに取材で話を聞いた酪農家の方たちが「ここで被害が出たぞ」と教えてくれたり、役場の職員の方が「こういう調査をするから、来る?」と声をかけてくれて現場に行ってみたら、そこに藤本さんたちもいて……というパターンもありました。それで思い出したけど、あの3月9日の足跡のときもそうだよな?
有元 そうです。
山森 釧路総合振興局の方が「OSOの足跡探しにいくから、ついてきていいよ」と言ってくれて、有元が小さなデジカメ持って現場に行ったら、藤本さんたちも来ていて、その場で大きなクマの足跡を見つける場面をやっと撮れた。ところが……。
有元 デジカメが壊れて、データが全部飛んじゃうという(苦笑)。慌てて修理に出して、何とかデータ復旧できたからよかったんですけど。
山森 あれが2022年の1月から3月で唯一撮れた映像だったもんね。
有元 本当に死ぬかと思いました。
「OSO18の実像」が見えてきた
結局、2022年の残雪期には捕獲に至らなかったが、藤本らはOSOの冬眠場所を厚岸町西部の森ではないかと推定。そのうえでOSOの過去の襲撃パターンを分析し、この夏、襲撃がある可能性がある場所を、推定冬眠場所から東へと向かう「厚岸ルート」か、北へと向かう「阿歴内ルート」の2つに絞った。
すると7月1日、この年、最初のOSOによる被害が出る。まさに藤本が予測した通りの東阿歴内牧野(標茶町)で3頭の牛が襲われ、2頭が死んだのである。
山森 この2022年の夏までは「OSO18の実像」という部分でいえば、何もわかっていませんでした。