1ページ目から読む
2/5ページ目

 たとえば「人間が自然をコントロールしてきた時代の終焉を告げる存在」なのか、「奪われた土地に再び侵入する無数の獣たちの象徴」なのか。企画書に書く言葉のちょっとした表現の違いで、番組の方向性自体が変わってくるような気がしたという。ようやく書き上げられた企画書の最後の1行には、こう書かれていた。

〈見えない怪物に、人間は何を見るのか〉

「NHKスペシャル」としては異例の早さで、2人が出した企画は通った。

ADVERTISEMENT

苦戦する「密着取材」

 企画が通る前から現地で猟友会関係者に当たるなどの予備取材はしていたが、2人が本格的に取材に入ったのは2022年の年が明けてからだった。

 その時点でOSOに襲われた牛は57頭に達し、うち26頭が死亡、襲撃現場も当初の標茶町から隣の厚岸町にまで拡大しつつあった。襲撃が始まってから2年半が経っていたが、OSOの目撃証言は、2019年の最初の襲撃時の1件に留まっていた。

最初の被害現場・オソツベツ。その後の連続被害を予想したものはいなかった

――まずはどこから取材を始めたんでしょうか。

山森 調べてみると冬眠から目覚めて活動を始めたクマの足跡が追える春先が捕獲の最大のチャンスということが何となくわかってきたので、その追跡に密着できないかと考えました。その頃には「南知床・ヒグマ情報センター」の藤本靖さんが「OSO18特別対策班」のリーダーを引き受けるらしいというのもわかってきたので、まずは藤本さんのところに行きました。

「それは無理に決まっている」

 藤本が“現役最強のヒグマハンター”赤石正男らと立ち上げたNPO法人「南知床・ヒグマ情報センター」は、ヒグマの生態調査と有害駆除を手掛け、これまで250頭近いヒグマを捕獲している。その実績を買われた藤本が、北海道の委託を受けてOSOの捕獲を目指す「OSO18特別対策班」のリーダーに就任したのは2021年11月のことだった。

「OSO18特別対策班」のリーダーをつとめた藤本靖氏(中央)

有元 2022年の1月に標津町の事務所にお邪魔して、藤本さんと赤石さんに4時間くらいお話をうかがって。クマも猟も全然知らない世界なので、話が尽きなかったです。それで藤本さんたちのグループがエゾシカの「巻き狩り」をやるというので、その様子を撮らせてもらって、ニュースリポートとして放送したりもしていました。

山森 そういう流れもあったので「OSO18を追いかけるところに密着させてほしい」とお願いしたんですが、「それは無理に決まっている」と言われてしまいまして……。

有元 今、考えると当然なんです。シカとクマではやっぱり危険度が全然違う。後で藤本さんから「信頼できない人は絶対に連れていけないよ。ヒグマが相手の場合、現場でそいつが下手な真似をすると、本当に誰かが命を落とすことになる。だから最初は断ったんだ」と聞かされました。

山森 そんなわけで正直、最初のうちは藤本さんのチームには密着どころか、なかなか撮影すらさせてもらえないという状況でした。