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《そんなときでも、うちの妻は腹が据わっていました。十万円なら十万円の生活、千円なら千円の生活をするだけだ、と言って。いい女房を選んだなとしみじみと感じたのは、あの時期でした》(『婦人公論』2014年11月22日号)

ようやく手にした平穏な日常

 このころはまた、芸能界を引退した百恵さんをなおも追うマスコミの取材攻勢がエスカレートしていた時期でもあった。長男と次男(現・俳優の三浦貴大)の出産、幼稚園の入園式や運動会など、ことあるごとに報道陣が押し寄せた。自宅の前を終日張り込まれることもあり、その恐怖たるや、のちに三浦が著書で、マスコミが《夏の海水浴客で賑わう海岸に放たれたジョーズのような存在に思えた》とたとえるほどであった(『被写体』マガジンハウス、1999年)。

©文藝春秋

 その後、マスコミとは話し合いを重ね、ようやく平穏な日常を獲得する。生活が落ち着いてからのインタビューでは、往時を振り返り、《百歩譲って僕らは仕方がないとしても、周囲の人に迷惑がかかることだけは避けなくてはいけない。だから夫婦で一致団結して、マスコミ攻勢と闘っていました。(中略)でも今になって思えば、共通の苦悩を抱え、協力体制で乗り切ったことで培った信頼関係というものが確実にあります》とも語っている(『婦人公論』前掲号)。

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 もちろん、結果的にそうなったというだけで、過剰な取材攻勢のために三浦の家庭が崩壊していた可能性も十分にあり得ただろう。結局、それを乗り越えられたのは、もともと夫婦のあいだに互いを信じようという思いが強くあったからなのではないか。

“恋人宣言”後に製作された、三浦・山口コンビの共演11作目の映画『天使を誘惑』(1979年公開)

俳優としての「円熟味」

 俳優としての三浦は、年齢を重ねるにつれて円熟味を増したという印象がある。いつしか日本映画には欠かせない俳優の一人と目され、映画賞も多数受賞している。役の幅も広がり、さまざまな映画やドラマに出演するようになった。映画でいえば『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)や『沈まぬ太陽』(2009年)のような大作の一方で、画期となった『台風クラブ』のような公開規模の小さな作品にも出演を続けている。

 一昨年(2022年)には、気鋭の映画監督・三宅唱の『ケイコ 目を澄ませて』にボクシングジムの会長役で出演、主演の岸井ゆきのが扮するろう者のボクサーと手話も使わずに心を通わせるさまを見事に演じてみせた。2022年度の『キネマ旬報』ベストテンでは、同作での演技が高く評価され、同年に公開された『線は、僕を描く』『グッバイ・クルエル・ワールド』とあわせて助演男優賞を受賞している。