極端なことを言ってしまうと、相手を刺し殺すことが愛を永続させるための唯一の手段だとしたら、彼女はそうしてしまうよなって。冷静な視点からは、なかなかスッと入ってこない考えだと思います。でも彼女と同じように熱のこもった状態では、すごく納得できたんですね。普段とは違う、熱にうかされたような状態では。
私はずっと夢の中にいるような感じでした。演じているとき、ずっと。だからこれは夢の中にフワフワといて、最後に彼女が目を覚ます映画なのかもしれません。夢の中とか、別次元にある愛のかたちですよね。
――演技についての考え方も聞かせてください。橋本さんにとって、いい演技をするために大事なものはなんですか?
橋本 たくさんありますけど、いちばんは嘘がないことです。演じている実感として、そこに少しでも嘘が混じった瞬間、話せなくなるし、歩けなくなる。演技は紛れもなく真実に属するものだと思っているので、嘘をつかないためにどうすればいいのかということを、突き詰めてやっています。この世にいない人を演じてはいけないと思っていますね。
自分が褒められるより嬉しいことは…
――橋本さんの今回の演技は、橋本さんの普段の言葉と同じように自己顕示欲がなく、役柄に身を捧げるようにして、その感情を強く伝えるものでした。
橋本 ありがとうございます。でも私、自分がどれだけ褒められてもあまり嬉しくないんです(笑)。もちろん嬉しさはありますけど、10人に私の演技を褒められるより、たったひとりの人がこの作品を大傑作だと言ってくれるほうがよっぽど嬉しい。いい作品に関われることが、私のいちばんの幸福なんです。
だからこそ、その作品にいい演技で返せていないと許せないんですね。演技を自己表現の手段としてとらえるのではなく、むしろ自分がそこからいなくなることがゴールです。自分を消すことが演技の指標になっている気がするし、そこまで行くのが私は好きです。
――たしかにスクリーンに映っているのは橋本さんの姿でしたが、そこにいるのは橋本さんではありませんでした。
橋本 そう感じてもらえるところまで行けると、やっと落ち着ける気がします。
INFORMATION
橋本愛さんが主演する映画『熱のあとに』は新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほかで公開中です。
オフィシャルHP https://after-the-fever.com/
X(旧Twitter) https://twitter.com/seiyoku_movie