重要なのはInstagramやTikTokにアップしてどれだけ“いいね”がつくかだけ…新作スニーカーを履かずに返品する、若者たちの心理とは?
スニーカーショップ「atmos」創設者で元「Foot Locker atmos Japan」最高経営責任者の本明秀文氏による初の著書『スニーカー学 atmos創設者が振り返るシーンの栄枯盛衰』(KADOKAWA)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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欲しいのはスニーカーよりも「いいね」
誰もが欲しがる限定モデルのスニーカーや何層にもレイヤーを重ねたアッパーに分厚いソールを持つ「バレンシアガ」のダッドスニーカーは「履かなくても自慢できる」という点から、いわばSNS映えを意識した結果として誕生したブームであり、それらのアイテムの購買層はどちらかと言えば若者が中心です。
彼らの購買行動は極めてしたたかであり、合理的です。抽選で手に入れたレアなスニーカーをSNSにアップしたいと思うのは誰しも当然ですが、中には20歳そこそこの年齢なのに100足以上もレアスニーカーをアップしている人もいる。
さすがに学生のバイトで買える足数ではないので、不思議に思って「そんなにお金持ってないよね? どうやってるの?」と訊ねたところ、「このスニーカー、僕のじゃなくて借り物なんです」という答えが返ってきたことがあります。詳しく話を聞くと、どうやら仲間内で購入する順番を決めており、1足のスニーカーを仲間同士でシェアしてSNSにアップしているそうです。
そもそも彼らは街で履く気は無いため、スニーカーが自分の所有物であるか否かはどうでもいい。重要なのはInstagramやTikTokにアップしてどれだけ“いいね”がつくか、ということです。極端な話をすれば、持ち物自慢をした時に“いいね”がたくさんつくのであれば、スニーカーではなく「ロレックス」でも「バレンシアガ」でもいいのです。
ただ高級時計やハイブランドは金額がかさむため“いいね”の数と比べて費用対効果がよくありませんが、その点でもスニーカーは優秀でした。なぜなら、仲間内で一緒に並べば抽選で購入できる確率が上がりますし、定価で購入できれば1万数千円の靴でもSNSにアップすれば1本100万円以上する「ロレックス」よりも“いいね”が付くのですから。