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「こんな生活、馬鹿らしい」パトカーを見ただけで心臓バクバク…“元・特殊詐欺グループメンバーの男”が組織からの脱退を覚悟した日

『闇バイトで人生詰んだ。』より #2

2024/02/11

genre : ライフ, 社会

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 運転手が「タバコを吸いに行く」と言い、私は助手席でその帰りを待っていたが、ここでなんだか嫌な予感がした。車内は飛ばしの携帯電話、名簿、顧客の資料が散らばっていたため、直感を信じて慌ててそれらを片づけて足元にまとめて車外からは全く見えないようにした。

 そして、車のシートを倒し、少し休んでいる態を装っていると……運転席側のドアミラーにゆっくりと映り込むセダンを確認できた。暗かったので最初はわからなかったが、よく見るとパトカーだった。

「あ、終わった……」

 時速5キロくらいだっただろうか。ゆっくり近づくパトカー、私は思わず目をつむり寝たふりをしながら、薄目を開けていた。するとそのパトカーは私が乗っていた車に横づけをしてビタッと停車した。

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「あ、終わった……」

 心臓が飛び出るくらいバクバクしている。こんな緊張感は初めてだった。警察に窓をノックされたら人生が終了する。そんな風に思っていた矢先……パトカーはゆっくりと前進し、通過していった。タバコを吸っていた運転手が車へ戻ってくると「お前もう終わったと思ったよ」と笑みを浮かべながら言ったが私は数分笑うことができなかった。

 絶対に身内しかわからない飛ばしの携帯電話がストップしたこともあった。携帯電話のキャリアに確認をすると、とある機関からこの電話をストップするように言われたと言っていた。恐らく全てお見通しなのだろう。私たちは直ぐに事務所を退去、電話を壊し川に投げ捨て、登記していた会社も飛ばした。

 こんな風に、常に警察に怯える生活。

 詐欺事務所のインターフォンが鳴ると「警察か?」と勘ぐる日々が続いたが、その日がとうとうやってきてしまう。インターフォンが鳴り、モニターを確認すると制服の警察官が立っている。

「終わったか……」

 でも話してみないとわからない。私は恐る恐るモニターの通話ボタンを押した。私が「はい」と言うと警察官は間髪入れずに口を開いた。