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「東京ドームで解散です」BiSHの“終わり”が密かに始まった日、モモコグミカンパニーが「よかった」と思った理由

『解散ノート』より#1

source : ノンフィクション出版

genre : エンタメ, 芸能, 音楽

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 そしてそのあと、心臓がバクバクと音を立てて鳴った。夢じゃないかと思って頬をつねりたくなった。でも、つねるのはやめた。周りを見渡しても、頬をつねっているメンバーは誰一人いなかった。メンバーの顔が見たくなった。私の席から見えるチッチは泣いていた。アユニの目も潤んでいた。ハシヤスメとリンリンはそれほど動じていないように見えた。隣にいるアイナの顔はなんだか覗き込めなかった。そして、恐らく誰も青天の霹靂のようには驚いていなかった。誰も「解散なんてしたくない」とは言わなかった。誰も反論しなかった。

 みんなどこかで分かっていたことだったからかもしれない。“楽器を持たないパンクバンド”BiSHがいつまで続くのか。今は上り調子だけど、この先一体どうなるか。そんな不安を、一人ひとりが同じように抱えていたからだろう。私自身が最初に感じた「よかった」という気持ちは、その終わりの見えない不安から解放されたから出てきたのかもしれない。

 渡辺さんはみんなと納得した形で私たちを終わらせたがっていた。鼻をすする音もかすかに響き、誰も周りの顔を見られないまま俯いていると、ハシヤスメが言った。

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「お客さんの立場に立ってみたら、『東京ドームで解散』は、BiSHが最後までワクワクさせてくれたなと思ってくれると思う」

 一気に部屋の空気が軽くなる。きっと、彼女もその感情だけではなかっただろう。だけど、ここまでで一番ポジティブな意見だった。

「BiSHは最後までBiSHだったな」

 そう思われたい。それが私たち全員の共通の気持ちなのかもしれないと思った。

「メンバー個人がこの先やりたいこと」、「BiSHがなくなってから」の話になる。

 みんなはどんな顔をしているのだろうと思ってまた周りを見渡すと、急にメンバーが全然知らない人のように見えた。この子たちは私のことをこれっぽっちも知らないし、私も彼女たちのことを何も知らない。そんな気がした。そうだ、私たちはもともとバラバラの人生を歩んできた者同士。そのまま進んでいれば、交わることなどきっとなかった。いったんBiSHを取ってしまえば、驚くほど距離があるのだろう。

 今のこの部屋の空気は異様だった。少し前に“解散”という言葉を告げられたとは思えないほど、不思議と清々しいとも言える空気が漂っていた。

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