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 終わりがある、ということがはっきりと告げられ、なぜだか、これまでBiSHで過ごす毎日がこんなにも愛おしく感じていた理由が分かった気がした。みんな心のどこかで分かっていたこと、それがはっきりと言葉にされた。

 話し合いが終わり、何も考えられずふわふわとしたまま、事務所の階段を下りて外に出た。今まで鬱陶しいとすら思っていたこの道玄坂の景色が夢みたいに感じた。降り続く雨と風に吹かれながら、きっと、これがバンドとアイドルを行き来している私たちの宿命なんだと妙に納得する自分もいた。

 どこまでも続きそうなパンク精神とアイドルの儚さはどちらも切り離せない。この宿命には、恐らくみんな気づいていたはずだ。

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©鈴木七絵/文藝春秋

 これまでも、BiSHとして生きる自分の人生を夢のようだなと感じることがあった。

 何一つできないままBiSHに加入した私がもう5年目を迎えている。ステージに立っている。お客さんが特典会で自分の前に並んでくれたりする。ファンレターももらう。だけど結局今になっても、そんな一つ一つが当たり前のことだなんて思えなかった。BiSHはどんどん大きくなっていった。しかし自分は、渋谷の小さな事務所で初めてメンバーと顔を合わせたときや、一人だけツイッターのフォロワー4444人達成に失敗して素顔解禁ができず家で一人泣きじゃくったあの日となんら変わっていないような気もしている。だから、まだ夢みたいだと思ってしまうのかもしれない。

 BiSHがなくなったらどうやって生きていこうか。今までも考えたことはあったが、改めて突き付けられた。気づけば頭の中でグルグルと自問自答が始まっていた。BiSHに入る前の、居心地がよく生ぬるい日々にまた戻っていくのだろうか。そう考えると足がすくむような気持ちになった。だけど本当に、BiSHを取った自分には“何もない”のだろうか。

 思えば、何もできなかった自分をいつだって、「君にもできる!」と励まし続けてくれていたのはBiSH自体だったと思う。BiSHに入って、教わってきたもの、得たものは大きい。BiSH加入前の自分から何もかも変わってないわけではないだろう。そう思うと、ほんの少しだけ勇気が湧いた。

 “解散”まで、「BiSHに一体何ができるのか」そして、「自分には一体何があるんだろうか」、この2つの問題とずっと向き合っていくことになるのだろう。

解散ノート

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文藝春秋

2024年2月14日 発売