1ページ目から読む
4/4ページ目

──なるほど。変な言い方ですが、お話を聞いていると、本当に物理学者なんですね。BossBさんには息子さんが2人いるそうですが、研究は産後も続けたんですか。

BossB はい。長男は2004年に出産して、子育てしながら、カリフォルニア大学サンタバーバラ校やドイツの研究所でポスドクをやってました。大学院時代と同じように、銀河風や超新星爆発をシミュレートして、観測結果と比較する研究です。

 日本に戻ってからは宇宙線の効果も考慮してみたり。最後に天文物理学分野で論文を出したのは、2年前かな? 100億年前の宇宙における元素分布を説明するための銀河風の役割と、その影響について書きました。

ADVERTISEMENT

 

──最初の出産は、博士号を取った翌年ですよね。海外で子育てと研究をするうえで、キャリアについてどう考えていましたか。

BossB 何も考えてません。私、「キャリアをこうしたい」とか「将来的にこうなりたい」とか、考えないんですよ。坊主頭のときもそうだけど、「今、何をしたいか」という、心の欲求に従って生きてきたので。

 子どもが生まれたら、子どもと一緒の時間を過ごしたくなり、そのうち次男も生まれたので、2006年ごろから7年間は育児だけをしてました。

「息子たちにとっては私と彼は親なので」

──プロフィールによると「自主的に育休」とありますが、どこかの研究所などに所属していた?

BossB いえ、無所属だったので無給です。子どもたちが少し大きくなってきた頃、そろそろ働いてみようかなと思って。当時はアメリカにいて、まずキックボクシングのインストラクターをやりました。

──キャリアと全く関係ない仕事ですね。

BossB そう。その後はミシガン州のコミュニティ・カレッジで、天文や物理の非常勤講師をやって、教える仕事も楽しいなと思っていたところで、離婚して一人で生きていきたいな、と思い始めて。

──ニューヨーク時代に結婚したんですよね。国際結婚ですか?

BossB 結婚したのは私がポスドクになって、当時のパートナーが社会人から大学院生になる直前だったと思います。結婚というよりも、当時は「子どもがほしいよね、だから入籍しよう」という流れで。でも今思うと、パートナーシップにしておけばよかった。これは若い人たちに伝えたいけれど、私は入籍に深い意味はないし、結婚制度そのものも考え直したほうがいいと思ってるんですよ。

 ただ、子どもの権利は守られるべきです。息子たちにとっては私と彼は親なので、男女関係はないけれど、今も家族として成り立っています。相手はデンマーク人です。

──日本に来たのは、シングルになったタイミングと関係が?

BossB はい。離婚てやっぱり、ごちゃごちゃするんですよ。だから、一旦場所を変えたいと思って、子どもたちと日本に来ました。

──離婚しなければ、海外で暮らしていた?

BossB そう思います。ただ、私も子どもも自然が好きなので、帰国後にいろんな場所でキャンプをしたんですよ。で、長野の穂高に行ったら、景色がものすごく綺麗で。そのとき、「日本にもこんなに美しいところがあるなんて!」と感動して、こういう場所で働くのもいいかもなぁ……と思ったんです。

 そしたら、ちょうど信州大学にポジションがあったので、この山の中の大学に来ました。それから10年経ちます。

BossB氏の息子たち。長男は現在20歳、次男は17歳(本人のInstagramより)

──そういう経緯でしたか。ギャルっぽいけど、実はずっとハイキャリア一筋という経歴かと思ってました。

BossB そうじゃないです。なんちゅうかな、日本人は「こういうのがギャル、こういうのが女性の理想的なキャリア」とか、固定概念で捉えすぎですよ。私は昔から、心のままにやってきただけ。

 この前、20~30代のゲーム系YouTuber「ゲームさんぽ」さんたちと話す機会があって。金髪の女キャラが出るゲームがあったので「これはギャル?」と聞いたら、そうじゃないと。「金髪で派手な化粧でも、全部がギャルじゃない」と言うんですよ。

「ギャルより私の方が先だもん」

──ギャルと普通の境目って、何なんでしょうね?

BossB そのYouTuberさんたちは「その人の在り方、メンタリティだと思います」と言うんです。そうだとしたらね、もし私のような存在がギャルに見えるならば、「BossBはギャル」じゃない。「ギャルはBossB」ですよ。

 

──主語が逆になる?

BossB そう。私はいろんな文化の要素を含んだ唯一無二の人間なので、「ギャル」という枠にはめられたくないかな。だから、「ギャルはBossBである」と。だって、私のほうが先だもん。

《プロフィール》
1971年生まれ。日本の高校を卒業後、ニューヨークの工科大学に進み、2003年コロンビア大学大学院博士課程修了(天体物理博士号)。カリフォルニア大学サンタバーバラ校、ドイツのマックス・プランク天文学研究所などを経て、約7年間育児に専念。2013年に帰国後、2014年から信州大学工学部工学基礎部門講師。2022年から准教授。本名・藤田あき美。