「シャバにもどっても、何か不便なことがあれば、ムショで生活していた方がマシだって思って、わざとつまらない犯罪をしてしまうんだ」

 高齢の受刑者が出所後も犯罪を繰り返し、すぐに刑務所に戻ってしまう理由とは……? ノンフィクション作家・石井光太氏の新刊『無縁老人~高齢者福祉の最前線~』(潮出版社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

なぜ高齢の受刑者ほど、また過ちを繰り返してしまうのか? 写真はイメージ ©getty

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再犯者のたどり着く先

 鳥取県の山陰道の鳥取インターを降りると、黄金色の稲穂が揺れる田園風景が広がっている。田んぼの中の一本道を車で進んでいくと、牧歌的な光景には似つかわしくない、コンクリートの塀に囲まれた要塞のような建物が現れる。正門には日の丸の旗がはためき、制服を着た警備員が厳しい顔をして立っている。

 ここは鳥取刑務所。全国に存在する60を超える刑務所のうちの一つだ。

 現在、刑務所が抱えている問題に、受刑者の高齢化がある。建前の上では、刑務所は罪を犯した者を一定期間収容して反省を促し、出所後に真っ当な道に進ませるための施設である。

 だが、現実的にはそうはなっていない。受刑者の社会復帰は容易ではなく、出所したところで2人に1人は再犯を起こしている。特に前科のある高齢者は就労が困難であるため、違法行為をくり返す率が高い。

 かつて私が取材した前科11犯の70代の受刑者はこう語っていた。

「社会復帰しても金も友達もなく、何をやるにしてもすごく大変なんだ。その点、刑務所にいれば医療も受けられるし、ご飯も無料で食べさせてもらえる。だからシャバにもどっても、何か不便なことがあれば、ムショで生活していた方がマシだって思って、わざとつまらない犯罪をしてしまうんだ」

 一部の受刑者にとって、刑務所は社会で暮らすより居心地のいい場所になっているのだ。

 2017年12月、国はこうした現状を受けて「再犯防止推進計画」をまとめた。受刑者たちが、再び罪を犯さないように居場所を見つけたり、福祉につなげたりする仕組みを作ったのだ。

 そんな中、高齢者を多く収容する鳥取刑務所のある鳥取県ではどのような取り組みが行われているのか。塀の中に足を踏み入れてみることにした。

 日本全国に数ある刑務所は、それぞれ特徴を有している。重大事件を起こした受刑者が主に集められる刑務所、心身の治療が必要な受刑者が集められる刑務所、犯罪傾向が軽く更生が期待される受刑者が集められる刑務所などだ。