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「全部ギャンブルのせいですよ」“前科15犯”になるまでドロボウをやめられなかった67歳男の不幸「次にここを出るときは70歳」

『無縁老人』より #2

2024/02/18

genre : ライフ, 社会

note

「前科4犯の61歳男性」と「前科15犯の67歳男性」のインタビューをお届け。知的障害でも精神疾患でもないのに、彼らが「犯罪をやめられない」理由とは……?

 ノンフィクション作家・石井光太氏の新刊『無縁老人~高齢者福祉の最前線~』(潮出版社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

彼らはなぜ犯罪をやめられないのか…? 写真はイメージ ©getty

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「僕は女の人がいるとダメになるんですよ」

【森篤弘(仮名、61歳、前科4犯)】

 九州で建設会社を経営する父のもとで、篤弘は長男として生まれ育った。地方の私大を中退後に、専門学校を経て、地元のガソリンスタンドに就職した。

 彼は若い頃から何をするにも不真面目で中途半端なタイプだった。そのくせその場限りの調子の良いことばかり口にするので、職場でも、プライベートでも誰からも信頼を得られない。

 ガソリンスタンドの仕事を数年で辞めた後、彼は親族の紹介で何度か転職したが、どれもつづかず数カ月から数年で辞めてしまった。

 安定した収入がないのに、篤弘はスナックやキャバクラが好きで通ってばかりいた。店へ行くと、見栄を張って高額な酒を注文し、ホステスに気前良くプレゼントを贈る。金を貸してくれと言われれば、いくらでも貸す。実家暮らしでも、そんな生活がいつまでもつづくわけがない。

 最初の逮捕は、20代の終わりだった。ある日、篤弘は昔の職場の女性に連絡をすると、彼女からうつ病で仕事ができず生活に困っていると相談を受けた。彼は良いところを見せようとして、その女性に金を貢みつぎはじめた。女性が喜ぶと、頼まれてもいないのにどんどん金を渡すので、あっという間に貯金が底をついた。それでも彼は貢ぐことをやめず、勤めていた会社の機材を盗んで転売したところ、それが露見して逮捕されたのである。

 この時は初犯だったために執行猶予がついた。だが、その後も性懲りもなく同じようなことをする。盗みが癖になったのだろう。そうして彼は刑務所と一般社会を行き来する生活に突入するのだ。

 篤弘は話す。

「僕は女の人がいるとダメになるんですよ。普段は趣味も何もない静かな人間なんです。女の人の前じゃなければ、酒も飲まないし、ギャンブルもやらないので、まったくお金を使わない。けど、女の人を前にすると、どうしても格好つけたくなって、たくさんお金を浪費して、最後には困って会社の物を盗んじゃう。やっちゃいけないってわかっていても、自分を抑えられずくり返してしまうんです」

 金のためと言いながら、彼が行う窃盗は無思慮で浅はかだ。