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「全部ギャンブルのせいですよ」“前科15犯”になるまでドロボウをやめられなかった67歳男の不幸「次にここを出るときは70歳」

『無縁老人』より #2

2024/02/18

genre : ライフ, 社会

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 たとえば、ある日、彼はキャバクラで知り合った女性に入れ揚げ、会社にあったトランジット(道路工事などで角度を調べる測量機器)を盗んだことがあった。この時、彼は「地元で売ったらバレる」と考えてレンタカーを借り、九州から山口県まで行って、それを数万円で売った。

 だが、レンタカー代、ガソリン代、高速代を払えば、窃盗と転売で得られる額など雀の涙だ。つまり、思いつきで犯罪をしているだけなのだ。

 こうした人生は四半世紀以上もつづき、複数回にわたって刑務所に入ることになった。そんな彼も61歳。出所後に就職することは簡単ではないだろう。どうするつもりなのか。その問いに対する答えも篤弘らしい。

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「今僕が信用できるのは、逮捕時にお世話になった山口県の警察官です。調書を取られている時、僕の将来を心配してくれたんですよ。立派な人です。だから、ここを出たら、その人のところへ行こうと思っています」

 この警官とは逮捕と取り調べの時に話しただけだという。その警官にしたって、出所した彼にいきなり訪ねてこられても困るだけだろう。だが、彼はそのことすらわかっていないのである。

「プロの空き巣」を自称する67歳・前科15犯の男

【広岡一郎(仮名、67歳、前科15犯)】

 一郎は端整な顔をしており、体格もスマートだ。頭の回転も悪くなく、受け答えもはっきりしている。塀の外で、「スポーツ好きで会社の役員です」と言われれば、信じてしまいそうな雰囲気がある。

 だが、彼はこれまで社会で真っ当な仕事をしたことがなく、17歳の頃から空き巣をして生きてきた。前科は15犯。人生の大半を刑務所で過ごしてきた、自称「プロの空き巣」である。

 関西の田舎町で、一郎は育った。父親は製材所で働きながら、自宅の土地で農業を営んでいた。経済的にはそこそこ裕福だったが、14歳の時に母親が他界。そこから家族がバラバラになった。

 一郎は中学を卒業して間もなく、ギャンブルにのめり込んだ。競輪やオートレースに足繁く通いはじめたのだ。最初に逮捕されたのは、ギャンブルをする金欲しさにした空き巣だった。

 少年院に1年間収容され、18歳で出たものの、ギャンブル癖が治らず、保護観察中に再び窃盗をして逮捕。次は少年刑務所へ送られた。

 20歳で社会復帰したが、実家の親からは勘当された。一郎は家族からも見捨てられたことで、誰に気を遣うわけでもなく自堕落な生活をはじめる。空き巣で稼いではサウナやビジネスホテルに泊まり、ギャンブルで散財する。驚くことに、その生活は67歳になる今に至るまでつづくことになる。全国を転々としながら窃盗をしていたため、アパートなど一つの場所に住居を持ったことは一度もないそうだ。