母親がどんな人生を送ってきたか、在日二世の息子は知らなかった。「ハルモニ」たちの人生を丁寧に聞き取ったこのドキュメンタリーは、在日社会を超えて日本全体の財産と言っていい。ジャーナリスト相澤冬樹氏が推す必見の1本!

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 ザイニチ?  ああ、在日コリアンのことね。ちょっとは聞いたことあるけど、あまりよく知らないなあ。あの人たち、どうして日本にいるの?

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 …そんなあなたに、この映画を贈ります。きっと大切なことに気づくでしょう。日本は思うほど単一のモノクロ社会じゃなく、様々なルーツを持った人たちが共に暮らすカラフルな国なんだって。

「ハルモニ」は韓国語で「おばあさん」。映画では、植民地時代の朝鮮半島で生まれ、戦争前後の混乱期に日本で暮らすようになった、いわゆる「在日一世」の女性たちを指す。監督の金聖雄(きむ・そんうん)さんの母親もその一人だ。

©Kimoon Film

夢なんか何もないよ。死ぬのを待ってるんだ

 金監督は日本生まれの「在日二世」。1999年に母親が77歳で亡くなった時、その人生をほとんど知らないことに気づいたという。どうやって日本に来たのか?  どうやって生きてきたのか? 母への思いを重ねるように、在日コリアンが多く暮らす川崎市桜本でハルモニたちを撮るようになった。母を見つめるように見つめ語りかけたからこそ、ハルモニたちも「思い出すのもイヤ」という過去について口を開いたのだろう。

「私らの過去は苦労していない人がいないから。言葉(日本語)も知らない、西も東もわからない国に来て生きてきたから、よくここまで生きてきたなあという思いはありますよ」

「北(朝鮮)に弟が3人行ってるんですよ。行きたいです、弟に会いに」

「夢なんか何もないよ。死ぬのを待ってるんだよ」

植民地だった朝鮮で、祖母が教わったキムチ

 ハルモニたちの集いに欠かせないのがキムチ。白菜や唐辛子などをボウルで混ぜながら手分けして作り、みんなでおいしくいただく。これぞ母の味。その姿を見ると、私は自分の子ども時代を思い出す。我が家の食卓にも祖母の手作りのキムチが並んだ。祖母は戦前、今の北朝鮮の開城(ケソン)近郊で祖父と暮らし、日米開戦の年に母が生まれた。

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