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「在日一世の歴史の記録」は日本の財産だ

 大阪市でも生野区鶴橋などで在日の人が多く暮らす。ヘイトスピーチを規制する条例を全国に先駆け2016年に制定した。その年、鶴橋でヘイトスピーチをすると宣言した人物がいたが、裁判所から禁止命令が出て、カウンターの人々と警察に阻まれた。NHK記者だった私はこれをニュースにした。ヘイトスピーチ規制条例は表現の自由に反するという裁判も起こされたが、最高裁で規制は正当と認められた。ハルモニの言葉通りだ。

「在日一世の歴史を記録にとどめよう」。そんな使命感から生まれた映画は、在日社会を超え日本全体の財産となるだろう。それを川崎の支援者、三浦知人さんが語っている。在日一世は「日本社会に穴をあけて切り開いてきたパイオニア」だ。これから日本が「多文化で多様性を認められるような地域社会を作っていくためにも、在日一世の足跡をちゃんと表現できる場を作らなければならない」。その役割を見事に果たす作品に結実した。

©Kimoon Film

 ハルモニたちが沖縄を訪れ、沖縄戦を生き延びた「おばあ」たちと交流する場面もある。沖縄もまた日本の“多様性”を示す地域だ。そこで思うのは、詩人の金子みすゞの一節。

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「みんなちがって、みんないい」

 “多様性”って、そういうことだよね。そんな国こそ豊かなのだ。

INTRODUCTION
映画の主人公は、川崎に生きるハルモニたち。戦争に翻弄され、生きる場を求めて幾度も海を往来し、たどり着いた川崎でささやかにたくましく生きてきた在日たちだ。波乱万丈の人生を歩み、故郷・朝鮮半島への思いも貧困と差別の記憶も封印してきたが、老いてようやく文字を学び、歴史を知り、静かに力強く生きている。

STAFF
監督:金聖雄/制作:Kimoon Film/2023年/125分/日本/東京・新宿K’s cinemaで公開中。シネマ・チュプキ・タバタ(東京)、横浜シネマリン、京都シネマ、第七藝術劇場(大阪)、元町映画館(神戸)など全国で公開予定