昔から銭湯が大好きだった僕は、学校が休みの日は友だち数人と連れ立って銭湯に行くのが日課だった。
そのころ僕はおばあちゃんに育ててもらっていたのだが、「銭湯に行ってくる」と言えば夜遅くの外出でも許してもらえた。おばあちゃんも子どものころから銭湯に行っていたからだろう。給食で飲むものとなにも変わらないはずなのに、なぜか銭湯で飲む牛乳だけは特別な味がした。
悪ガキだった小学生の僕たちは、サウナの中で水風船を投げ合ったりしてやりたい放題に遊んでいた。中にははしゃぎすぎて出禁になった銭湯もあったが、そのころは反省するどころか、「俺たち、あの銭湯出禁になったんだぜ」と、ちょっとした武勇伝のように自慢したものだ。
ある時ははしゃぎすぎて、年上のお兄さんたちに目を付けられてしまったこともある。
「お前ら、ぶっ飛ばされるか財布出すか、好きな方選べ」
いつものように友達と銭湯を出ると、声をかけられた。声の主は、いかにもやんちゃそうな高校生くらいの集団だ。
今となっては高校生が小学生のカツアゲなんてみっともないと思うが、当時の僕たちは怖くて震えあがってしまった。
当然、選択の余地はなかった。
僕たちは全員、黙って財布を差し出すことを選んだ。しかも、なぜか僕だけ足払いをされて顔面を蹴られるというおまけ付きだ。仲間の中で唯一生意気な態度をとっていた僕が気に入らなかったのだろう。
その日からその銭湯には近づけず、また別の場所を探すしかなくなった。
「兄ちゃんも、クスリ抜きに来てるんでしょ?」
中学に上がってからはしばらく足が遠のいていたが、24歳で格闘技を始めてからは、減量のためにまた頻繁に通うようになった。
そのころ僕は手首まで刺青が入っていたので、サウナで一緒になった刺青だらけのおじさんによく話しかけられた。
「兄ちゃんも、クスリ抜きに来てるんでしょ?」
仲間だと見なされ、いつの間にかその前提で話が進んでしまうことも少なくなかった。
このように、全身に刺青が入っているとヤクザの人から声をかけられることは多い。
銭湯で意気投合した人から覚醒剤を買った友だちもいたし、サウナで勧誘されてヤクザに家業入りしたヤツもいた。