僕自身も、「いい身体してるね。何かやってるの?」などと勧誘を受けた経験は何度もある。
そういう時は、「自分はただ格闘技をやってるだけで、暴力団ではないし、興味もありません」とはっきり答えることにしていた。そうでもしないと、一度暴力団に入ってしまったら、一生その世界から抜けられないと思っていたからだ。
サウナ室でよく倒れているおじさん
そんな僕の銭湯生活だが、中には印象深い出会いもあった。
ある時期に僕が通っていた銭湯のサウナ室で、よく倒れているおじさんがいた。それも一度や二度ではなく、本当にしょっちゅうだ。
僕はそのおじさんが倒れているのを見かけるたびに、声をかけたりスタッフの人を呼んであげたりしていた。
「この間は悪かったね」
ある時、おじさんはそう言って牛乳をご馳走してくれた。
「よく倒れていますけど、大丈夫なんですか?」
僕が聞くと、おじさんはあっけらかんと答えた。
「ほら、シャブやってると睡眠もとらないし水も飲まないでしょ?」
「そうですね」
「その状態でサウナ入っちゃうもんだからさ、すぐ脱水症状起こしてぶっ倒れちゃうんだよ」
少なくなった歯を見せながら、おじさんはケタケタと笑った。
ここまで開き直ってしまえば、この人に怖いものなんかないんだろうな。そう思うと、僕も笑えてきた。足立区ならではのブラックジョークのようなものだ。
そんな愛すべき足立区の銭湯も、コロナ禍の影響で大打撃を受けた。これを受け足立区は、ふるさと納税の返礼品に「銭湯の一番風呂に入る権利」を組み込んだ。
古き良き銭湯を守っていくための、とても面白い試みではないだろうか。銭湯好きの僕としても、この取り組みは積極的に応援していきたいと思っている。
色々と物騒なことも書いてしまったが、基本的に足立区の銭湯はどれも素晴らしいものばかりだ。たまには壁に描かれた富士山以外の色とりどりの“絵”を眺めながら湯に浸かるというのも、また一興ではないだろうか。