近くに砲弾が落ちないことを祈りながらタイヤ交換
再び郊外に出るとミコラが「問題が起きてしまったようだ」と呟く。なんだよ、と思った瞬間に私も理解した。車がガコガコと振動している。パンクしてしまったのだ……。砲弾の破片を踏んだか、道の凹凸を猛スピードで駆け抜けたからか、思い当たるフシはいくらでもあった。一同に絶望が襲う。
タイヤをガコガコ鳴らしながら、ちょっとした丘の谷間に木陰を見つけたのでそこへ車を停車させた。砲撃はまだ続いている。ロシア軍に見つからないように急いで車に手作りの迷彩シートをかける。「すまない。今日はセベロドネツクへは行けそうにない」とミコラが謝ってきたが、「もういいよ」と言うしかない。とにかく早くタイヤを交換しなければ。
ミコラがタイヤを外している間、私は車にジャッキをかける。ホアキムはその様子をビデオに撮っている。ちょっとは手伝って欲しい。その間も周りからはドーン、ドーンと音が聞こえ、私達の近くに砲弾が落ちないように祈るしかなかった。その間もミコラは「神よ許し給え……」と呟く。なぜかウクライナ語ではなく英語で呟くので、こちらも不安が増すばかりだ。
帰路でクラスター爆弾のようなものに追いかけられる
タイヤ交換を無事に終え、今日は街に戻ろうと来た道をひたすら車で飛ばしていたところに、後方から追いかけてくるようにギュオォォンという音が猛スピードで近づいてきた。あ、ミサイルだ、死んだなコレ、と思った瞬間、ボンッと空中で炸裂した音の何秒か後に再び、ボンッボボボボボボボンッといくつもの炸裂する音が車を追いかけて来た。さすがにヤバいと思い、とっさに車の中で伏せた。一瞬、音と同時に車道脇の畑の土が大きく跳ねるのが見えた。
音から予測するに、おそらくだが、クラスター爆弾のようなものを撃たれていたと思われる。幸いなことに道沿いに建っていた家が盾になってくれて破片には当たらなかったようだ。緊張の連続で動悸が止まらず、落ち着かせるために自然と深呼吸になっていた。
やっとのことでホテルに戻ると、私をホアキムとミコラに引き合わせてくれたウクライナ人がいた。「何かあったの?」と聞く彼に私達は事の成り行きを説明すると、彼は笑顔で「ウェルカム トゥー ドンバス!」(ドンバスへようこそ!)と憔悴していた私達に言った。
写真=八尋伸