ハマスによるイスラエル攻撃がきっかけで昨年10月に起きたガザ紛争。世界のメディアがガザ紛争を取り上げているが、元外務省主任分析官の佐藤優氏とジャーナリストの池上彰氏は、「中立性」の観点から戦争報道の在り方について問題提起している。
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イスラエルの反撃は「行き過ぎ」なのか?
池上 10月7日早朝、パレスチナ暫定自治区のうちガザ地区を実効支配するイスラム武装勢力ハマスが、ユダヤ教の「仮庵(かりいお)の祭り」直後の安息日をねらって、イスラエルへの無差別攻撃を始めました。ハマス側の発表で約5000発、イスラエル側の発表で約2200発のロケット弾でテルアビブを始めとするイスラエルの各都市を攻撃。同時にハマスの戦闘員が、イスラエルとガザ地区を隔てるコンクリート壁、鉄条網、検問所を突破して、イスラエル南部に越境し、外国人を含む推定1200人を殺害し、200人以上を人質として連れ去りました。
これに対してイスラエル軍は、ガザ地区に激しい空爆を行ない、地上でも大規模な軍事作戦を展開しています。軍事作戦のさらなる拡大も示唆していて、一時的な戦闘休止は合意されましたが、停戦や和平への見通しはまったく立っていません。
佐藤さんとはいつも多くの問題で意見が一致しますが、今回はややスタンスが異なりますね。
「天井のない牢獄」と称されるガザを現地取材した際、私は人々の悲惨な生活を目にして、彼らの絶望感はいかほどのものか、と言葉を失いました。ハマスの蛮行は厳しく糾弾されるべきですが、その背景にはガザの凄惨な現状がある。しかも、パレスチナの一般市民が犠牲になっているのを見るのはやりきれません。
佐藤 ガザでPLO(パレスチナ解放機構)議長だったアラファトと面会したことなど、パレスチナ側ともわずかな接触はありましたが、私の場合は、それ以上にイスラエルとの付き合いが長く、とくにインテリジェンス専門家と濃密な関係を築いてきました。ですから、イスラエルの考えが皮膚感覚で分かります。
ハマスの攻撃に対するイスラエルの対応は、おそらく多くの日本人には「行き過ぎ」に見えるでしょう。しかし、ハマス掃討を徹底的に行なおうとするイスラエル側の「内在論理」はどんなものなのか。これを理解せずには、この紛争を停戦や和平に導くことはできません。日本の報道にはその視点が欠けています。
もちろん意見や立場の違いはあっていい。しかし、情勢分析では「事実」「(当事者の)認識」「(分析者による)評価」の区別が不可欠なのに、日本の報道の多くは情緒的すぎて、この3つを無自覚に混同している。
ちなみに日本にも、とくに国際政治学者のなかに、イスラエル支持者はいますが、「日米同盟こそ重要なのでイスラエルを支持する米国に追従する」というのがほとんどで、彼らの多くも、イスラエルの内在論理は理解できていません。