「なんて暗い世界に来ちゃったんだ」――声優人生40年を超える、堀内賢雄さんは新人時代をそう振り返る。
『機動戦士ガンダムZZ』ではライバル役のマシュマー・セロ、『鬼平』では主人公の長谷川平蔵など数百を超える作品に声優として出演。また映画では、ブラッド・ピットやキアヌ・リーブスなど名だたるハリウッド俳優の声や演技を吹き替えてきた。
若い頃は技術も経験もなく、役をほかの声優に差し替えられたこともある声優は、いかにして厳しい競争社会を生き抜いてきたのか? インタビュー前編では、「怒鳴られっぱなしだった新人時代」について教えてもらった。(全2回の1回目/後編を読む)
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「なんて暗い世界に来ちゃったんだ」
──今日はよろしくお願いします。
堀内 宜しくお願いします。文春オンラインからインタビューの依頼が来たって聞いて「絶対に優先してくれ」ってマネージャーにも言ったんですよ。僕の世代だと文藝春秋って少し「おっ」と思うような存在だから。
──ありがとうございます。堀内さんの声優業も40年を迎えました。
堀内 ディスクジョッキー(DJ)やワイドショーのレポーターをやって、プロデューサーに「声優になれ」と言われて。そこで、たてかべ(たてかべ和也)を紹介してもらってオフィス央に入ったのが最初でした。演技を全く知らないところからよくやりましたよね。オフィス央は、そのあとぷろだくしょんバオバブと合併することになりましたね。
──声優業を始めて半年の頃ですね。
堀内 ある日、オフィス央の事務所に行ったらみんな泣いてるんですよ。入ってまだ半年だから、なんで悲しいのか全然わからなくて、ニコニコしてたら先輩にすごく怒られたね。「だからお前は芝居が上手くならないんだ!」って(笑)。
──(笑)。DJのお仕事はどういったものでしたか?
堀内 ディスコ、今でいうクラブでレコードに書いてある概要をざっと読み上げて、会場を盛り上げるために音楽をかけながらずっとひとりで喋るんですよ。だから声優を始めた時に、たてかべがマネージャーに「ディスクジョッキーに声優ができるわけないだろ」と言ってるのが聞こえて。「なんて暗い世界に来ちゃったんだ」と、びくびくしていました。
──当時の声優業は、今よりも裏方のイメージが強いですよね。
堀内 みんな新劇を生き抜いて声優をやってる人たちで、全然実力が違いました。だから最初は監督にも怒鳴られっぱなし。あまりに下手だから、たてかべに「修行してから出直したいから除籍してくれ」って言ったら、「お前が受けたオーディションは全部受かってるぞ」って言われたんです。
──全部!?