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現代に通じるカフカの不条理
僕が今回、『K+ICO』の主人公にウーバーイーツ配達員のKを選んだのは、安易なラベリングを排し、彼の人間像にしっかり向きあってみたいと考えたからです。
Kという名前には、カフカの長編小説『城』の主人公Kも重ね合わせています。
今年はカフカの没後100年にあたりますが、100年後のわれわれが囚われている不条理は、カフカが芸術家として敏感に感じ取ったものの極北であるような気がします。
ウーバーイーツ配達員のKは、この社会を動かしている「巨大なシステム」の末端の存在であることは確かでしょう。そして「巨大なシステム」は、カフカの描く「城」のように得体がしれない。
タワーマンションに住み、ウーバーイーツを頼む人たちは、いっけん「勝ち組」に見えます。しかし彼らもまた、「システム」の一部でしかないのではないか。
人間ではなくAIが社会を動かしていく未来像が見えてきた今、ますますそう感じてしまいます。
だが、そうした「システム」の外に出る一筋の細い道はどこかにあるのではないか。
そういう希望も、『K+ICO』には込めたつもりです。
上田岳弘(うえだ・たかひろ)
1979年兵庫県生まれ。早稲田大学法学部卒業。2013年「太陽」で第45回新潮新人賞を受賞しデビュー。15年「私の恋人」で第28回三島由紀夫賞、18年『塔と重力』で第68回芸術選奨文部科学大臣新人賞、19年「ニムロッド」で第160回芥川龍之介賞、22年「旅のない」で第46回川端康成文学賞を受賞。他の著作に『異郷の友人』『キュー』『引力の欠落』『最愛の』など。