脳の老化速度は、生活習慣で変えられる
ヒトの脳は、体重の2%ほどの重さしかないのに、体を巡る血液の15%を独占し、全身代謝に必要な酸素量の20~25%を消費します。一般的な成人男子が1日に必要なカロリーは2700カロリーとされていますが、脳が1日に必要とするのは500キロカロリー。エネルギーの2割を脳が使っている計算になります。なぜそんなにエネルギーを使っているかといえば、みなさんご承知の通り、脳は基本的な生命維持のための全ての要素(体温、水分量、血圧、ホルモン、姿勢、動作など)を制御し、高次の思考(計画立案、意思決定)はもちろん、他者との関わりや感情の制御を行っているからです。
そして、脳も全身と同様に、かならず老化していきます。
ただ、そのスピードや変化に歯止めをかけ、脳をできるだけ良い状態にキープしつづけることは、努力によって可能であることがわかってきました。
大事なのは脳の健康に関する「生活習慣」を知り、脳によい、とされる行動をとることです。しかもその行動開始は、早ければ早いほどよいけれど、たとえ60代、70代になってから始めたとしても、効き目は確実にあるのです。
体にも脳にも適正な有酸素運動量は、週に150分
まず、運動について。ヨーロッパやアメリカの政府機関が、「適正な有酸素運動量は、週に150分」としていることを、みなさんはご存知でしょうか。それも、年をとればとるほど、多様な運動、強度を変えた運動を行うことが推奨されています。
たとえば、英国国民保健サービスによる運動に関する年齢別のガイドラインによれば19~64歳のガイドラインは、以下の通りです。
・自転車こぎや早歩きなど、中程度の有酸素運動を週に150分以上行う。
・加えて、週に2~3日、大きな筋肉(脚、腰、背中、腹、胸、肩、腕)を動かす筋力トレーニングを行う。
65歳以上になると、かなり異なってきます。
・毎日、身体活動をおこなうように心がける。どんな運動でも、何もしないよりは良い。軽い運動をできるだけ長時間おこなうとさらに良い。
・週に2日以上、筋力の強化、バランスと柔軟性を向上させる運動をする。
・週に一度、中程度の運動を150分以上行う。すでに運動している場合は、75分間の強度の運動、または、両方を行う。
・座っている時間や寝転がっている時間を減らし、なんらかの運動をして、長時間じっとしていることがないように心がける。
さらに、ガイドラインには記されていない「身体活動の脳への効果」について、いくつかの研究はこんなデータを示しています。
・習慣的に運動をしている中高年の脳機能は、運動していない若年層の脳機能と同じ、あるいはそれより優れている。
・座って過ごす時間が圧倒的に長い大人であっても、有酸素運動は思考能力(決断、思考速度、記憶力)に良い影響を与えている。
もう一つ、ここでは2011年の米国科学アカデミーの報告書を紹介しておきたいと思います。120人の中高年を対象にした研究で、こんな結果が出ているのです。
・有酸素運動によって海馬(脳の記憶の仕分け機能を担う部分)が大きくなり、記憶力が向上した(1年のトレーニングで体積が2%増えた)
一般に中年期の後半以降、海馬の体積は毎年1~2%減り続けるため、それが記憶力の低下につながっています。つまりこの研究結果は、有酸素運動で加齢による脳機能の喪失を1~2年分取り戻した、ということになります。
運動は、脳に効く! のです。