天台宗の開祖・最澄も泣いている…大阿闍梨が性加害に“関与”

「日本仏教の母山」として知られる天台宗(総本山・比叡山延暦寺)が、高僧の性加害をめぐって揺れている。四国に住む住職が、尼僧を14年間にわたって監禁、性暴行、恫喝などを繰り返していたというのだ。そこに、後述する千日回峰行を達成した偉大な存在である「大阿闍梨」も関与していたという。尼僧は天台宗に対し、ふたりの僧侶の僧籍剝奪を求める申し立てを行った。天台宗はようやく事の重大さに気づき始めたようだが、今のところは沈黙を守っている。名門教団のガバナンス不全が、仏教界全体に及ぼす影響は計り知れない。

撮影=鵜飼秀徳 記者会見をする叡敦さん(中央右) - 撮影=鵜飼秀徳

叡敦(えいちょう)さんは14年間にわたって、香川県の天台宗寺院の住職A氏から性暴力や恫喝、監禁などを受けていた。この加害住職を紹介し、叡敦さんをマインドコントロールし続けていたのが、同宗の最高位「大僧正」の地位にある80代の僧侶(称号は大阿闍梨)B氏だという。B氏は千日回峰行を達成して「生き仏」とも称される存在だ。叡敦さんは大阿闍梨B氏に繰り返し相談するも、叡敦さんを助けるどころか、A氏を擁護し、事件を隠蔽(いんぺい)し続けた。

事の経緯を詳しくみていこう。叡敦さんは、天台宗僧侶を祖父にもつ家に生まれ、幼少期から仏心に篤(あつ)かった。大阿闍梨B氏とは、叡敦さんの母がいとこ同士で、親戚関係にある。叡敦さんが小学生の頃、B氏は比叡山の千日回峰行を達成した。叡敦さんにとって、B氏は尊崇の極みといえる存在となった。

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千日回峰行とは、およそ1000日間、比叡山の山中を、真言を唱えながら歩き回る荒行のことである。回峰行の途中には、9日間の断食、断水、断眠、断臥を続ける四無行に入る。仮に行を断念という局面には、持参している脇差で自害しなければならない掟になっている。現代の仏教界では、もっとも厳しい修行といえる。

比叡山が開かれてから千日回峰行を達成した行者はわずか51人。戦後は14人しか満行者を出していない。達成者には「北嶺大行満大阿闍梨(ほくれいだいぎょうまんだいあじゃり)」の称号が与えられる。大阿闍梨は「生き仏」として崇拝の対象となり、全国から大勢の信者が集まる。大阿闍梨B氏は現在、比叡山の麓の寺院の住職の地位にあり、僧階も「大僧正」という最高位にある。