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新幹線でカフェを楽しめる

 そして、13号車のカフェスペースも大きな特徴の一つだ。かつては新幹線の食堂車やビュッフェは旅の楽しみだったが、合理化の波に飲まれてワゴン販売に置き換わってしまった。現在、新幹線でカフェを楽しめるのは、この列車を除けば、山形新幹線を走る同じE3系700番台の「とれいゆつばさ」のみだ。

「十日町すこやかファクトリー」で製造したスイーツや燕市の「ツバメコーヒー」監修によるこだわりのコーヒーを提供している。

 カフェスペースの隣には、子どもたちが大好きなプラレールの走るキッズスペースも設けられている。もちろん、この空間もアート作品の一部。プラレールの線路をモチーフにして地図を描くように壁や床にパターンを展開し、山を模したオブジェを配している。

プラレールをモチーフにしたキッズスペース ©文藝春秋

「偶然乗った」というお客さんも

 企画性の高いイベント列車・観光列車が全国で増えているが、その多くは特別料金がかかる。全席グリーン車の列車すらある。ところが、現美新幹線は自由席特急券さえ購入すれば、誰でも自由にアート鑑賞もカフェ利用もできる。

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「『美術館+カフェ』というコンセプトの列車なので、とにかく気楽に乗っていただきたいと考えています」(JR東日本担当者)

美術館やギャラリーと違って、窓の外は刻一刻と変化する。そして、光の加減によって、作品のイメージは大きく変わる ©文藝春秋

 現在、土日を中心に3往復が運行されているが、列車名は下りが「とき451、453、455号」、上りが「とき452、454、456号」となっており、駅の表示案内板を見ても「特別感」はない。

「普通の新幹線だと思って『偶然乗った』というお客様もいらっしゃいますね。そこは良い意味でのサプライズ、出会いとして歓迎していただいております」(同前)

新潟駅に入線する現美新幹線 ©文藝春秋

 惜しむらくは上越新幹線の新潟・越後湯沢間を往復するだけなので、乗車時間が45分と短い点だ。テイストの異なる作品を味わい、コーヒーを飲みながら車窓を眺めていると、あっという間に到着してしまうのだ。普通ならば「早く目的地に着くこと」こそが高速鉄道に求められるのだが、この現美新幹線には当てはまらない。まさに移動が「手段」ではなく「目的」になっている好例だ。

 かつて「団体臨時列車として大宮から走らせたこともある」(同前)という。ぜひ都内からの定期運行も実現してほしい。長いトンネル区間でも退屈せずにすむはずだ。

©文藝春秋

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