漆黒の車体がホームに滑り込んでくる。

 1964年に東海道新幹線の0系がデビューして以来、あまたの新幹線車両が製造されてきたが、黒い車両は他に例がない。どこか日本離れした印象のあるシックな「顔」から側部の「お腹」に目を向けると、一転してカラフルな塗装が印象的だ。写真家・蜷川実花が、全国的に有名な長岡の花火大会を撮った写真をベースにデザインしたという。

特徴的な先頭車両のカラーリング ©文藝春秋

 黒い新幹線の正体は、「世界最速の芸術鑑賞」と銘打たれている「現美新幹線」だ。

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もともと秋田新幹線向けの車両だったが

白いバーは、作品を保護するのと同時に「手すり」の役割も果たしている ©文藝春秋

 乗客がアートを鑑賞している間に、上越新幹線の新潟・越後湯沢間の平野を時速240キロで駆け抜ける。2016年のデビューから2年が経ち、3月31日に一部の展示がリニューアルされた。今年は、新潟市の「水と土の芸術祭」、そして越後妻有地域(十日町市、津南町)の「大地の芸術祭(越後妻有アートトリエンナーレ)」という二つの芸術祭が開催される節目の年でもある。

 E3系700番台。もともと、秋田新幹線向けに開発された車両だったが、「現美新幹線」として改造されたものだ。秋田新幹線は「新在直通運転」を採用しており、盛岡以西は在来線(田沢湖線・奥羽本線)の路線を利用している。したがって、トンネルなどの幅は新幹線のフル規格よりも小さくなっており、車体サイズもそれに合わせて小さくなっている。新幹線の駅に停車すると、ホームとのすき間が大きくなってしまう。このため、E3系には走行中には折り畳まれるステップが備えられている。

ホームとの間にステップがある ©文藝春秋

 さて、現美新幹線の車内に足を踏み入れると、その外観以上におおよそ新幹線のイメージからはかけ離れている。なにせ6両編成のうち、一般的な意味での座席は11号車の指定席23席のみだ。他の5両には、すべて異なるアーティストの作品が展示してある。

こちらは11号車の指定席 ©文藝春秋