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「ああ、キミにとってはいいんじゃない。今回の制度は、来年1年間働かなくたって、働いた分の給料とボーナス分が支給される設計になっているからね」
愕然とした。なんだ、自分は引き留められもしない存在なのか? 松本氏の言葉を聞いた瞬間、私はへなへなと脱力していった。
「もういつ辞めてもいい」私の腹は固まった。
電通を辞める日
ある年の3月末日、私が定年を前に電通を辞める日が来た。その日に、私の頭に去来したのは、それまで担当したクライアントと、その担当者たちの群像だった。そして、私が営業として競合プレゼンで勝ち取ったクライアントは、メインの広告代理店・電通を一度だって離れたことがないという事実だ。やはり私は電通が好きだった。
そんなささやかな誇りを胸に社内をあいさつ回りした私は、周囲の同僚たちの軽い会釈と、それよりも軽い握手で見送られた。
じつは私には、会社を辞めた日に、どのようにして家路についたのか記憶がない。もしかしたら、いつものようにバーで飲んでいたのかもしれない。