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 でも、いま世界的なトレンドでいうと、ソフトウェアは内製化する会社が増えています。SIerもあるにはありますが、別にIT企業でなくても自社でエンジニアを抱えてモダンな開発をする企業が増えました。ウォルマートしかり、ネットフリックスしかり……、とくに後者は技術力の高さで有名ですが、自社サービスの根幹を担うソフトウェアを、外注なんてしてたら勝てなくなってくるのでは? と思います。

 戦後日本はハードウェアが優れていた分、ソフトウェア開発は長らく下に扱われてきました。でも今や、ありとあらゆる分野にソフトウェアの力が必要になり、グローバルに通用するプロダクトやサービスをつくりたかったら、ソフトウェアの技術力が圧倒的にものをいう時代になった。

 

 よくみんな「イノベーションが大事だ」っていうじゃないですか。でも世界にないものを生み出すイノベーションって今どき技術もなくどうやってやるんですか? と感じてしまいます。ソフトウェア技術を軽視して、その現場の効率を高めようともせず、いくらイノベーションをうたったところで絵に描いた餅のような気がします。

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 もしあなたの会社が請負仕事ばかりで、現場が理不尽なやり方を強要されているなら、さっさと辞めてしまったほうがいいと思います。合理性のない場所から優秀なエンジニアがどんどん辞めていけば、日本のソフトウェア業界にも流動性が出て各企業による内製化も進み、結果的に日本のためにもなる気がします。

 日本は個々人でみたら技術力の高い素晴らしいエンジニアも多い。そういう方々は英語を勉強するだけでグローバル市場では年収が4~5倍に跳ね上がります。逆にいうと優秀なエンジニアを引き止めておくだけの改革を日本企業はしなくてはいけないし、仕事の請け負い方や開発方式、現場のマネージメント法などは喫緊に取り組むべき課題でしょう。

現場で働く人々の生産性と幸せを高める改革を

――日本ではエンジニアの扱いが低いですからね。

牛尾 大手SIerの中ですら、びっくりするような安月給ですよ。5次請、6次請けで働かされているプログラマーもざらです。僕は子供の頃からプログラマーが憧れで、自分にとってのヒーローでした。だから大人になって、その人たちの実情が安月給で働かされていて、よく分かってない人に命令されているのを見て、ものすごく嫌な気持ちになりました。そうとう勉強して努力して今の仕事に就いているはずなのに、敬意をもって扱われていない現状に。ある年齢を超えて管理職になれなかった技術者の扱いもひどいですね。

 アメリカでは、エンジニアが年を取っても本人が望む限り、生涯現役です。『デザインパターン』という本で有名なエリック・ガンマという技術者が社内にいますが、彼は60代の今でも自らプロダクトをつくっています。人前に出て語っているだけじゃなくて、今もみんなに使われるようなソフトウェアを書いていて、高く評価されている。

 あるいは世界中の企業が使っている「Kubernetes」というプラットフォームの開発者ブレンダン・バーンズという人が社内にいて、非常にリスペクトされて、彼もすごい報酬をもらっています。そういう方々を目の当たりにしていたら、現場の技術者たちはみな「ああなりたいな!」って思えるじゃないですか。

 日本企業は、旧態依然とした因習にとらわれず、さっさと重荷を下ろして、現場で働く人々の生産性と幸せを高めるために改革していったらいいなと思います。本書がその後押しになればこれほど嬉しいことはありません。

『世界一流エンジニアの思考法』牛尾剛 著(文藝春秋)

牛尾剛(うしお・つよし)
1971年、大阪府生まれ。米マイクロソフトAzure Functionsプロダクトチーム シニアソフトウェアエンジニア。シアトル在住。関西大学卒業後、大手SIerでITエンジニアとなり、2009年に独立。アジャイル、DevOpsのコンサルタントとして数多くのコンサルティングや講演を手掛けてきた。2015年、米国マイクロソフトに入社。エバンジェリストとしての活躍を経て、2019年より米国本社でAzure Functionsの開発に従事する。著作に『ITエンジニアのゼロから始める英語勉強法』などがある。ソフトウェア開発の最前線での学びを伝えるnoteが人気を博す。

世界一流エンジニアの思考法

世界一流エンジニアの思考法

牛尾 剛

文藝春秋

2023年10月23日 発売