高瀬 いや、逆に私は「普通さコンプレックス」みたいなのがあって。ずっと小説家になりたかったけど、イメージのなかの小説家は破天荒で、お酒を飲んで暴れまわってるんですよ。法律とかも守らないみたいな(笑)。だからこそ人にはない発想ができる、天才みたいな人。自分はこつこつ真面目なタイプで、就職してからも11年半くらい無遅刻無欠席で働いたんですよ。そんなふうに社会から求められる型にはまれる自分が考えることって、特別ではなくて、誰もが考えてることだとずっと思ってて。もちろん人は一人ひとり違うので、それはそれで傲慢なのはわかってるんですけど、でも自分なんかが思いつくことはみんなもう思ってるでしょっていう意識がずっとあるから、パンチラインが書けてる自信とか自覚はないです。
高瀬さんの次回作は「ドラえもん」⁉
大前 そうなんですね。読者としては、こんなに人のことがわかっている人ならなんでも書けるだろうなと思っちゃいます。『ドラえもん』とか。
高瀬 『ドラえもん』ですか⁉ それはどういうことですか?
大前 『ドラえもん』って話の型があるじゃないですか。ドラえもん自体のイメージも。そういう強い縛りがあるものと、高瀬さんの小説が出会ったらどういうものになるんだろうってすごい気になってて。
高瀬 私の小説を読んで「怖い」とおっしゃった大前さんが『ドラえもん』を書けって言ってくるのが不思議で(笑)。それは「怖いドラえもん」なのか、「怖さを封印した高瀬のドラえもん」なのか、どっちなんでしょう?
大前 わかんないです(笑)。
高瀬 怖いドラえもんは子供に見せたくないですよね。とすると、ハートフル路線……でもハートフルな話は書いてみたいんですよ。デビュー前の作品にはそういうものもあった気がします。
大前 高瀬さんが思うハートフルってどんなものですか?
高瀬 「池の水ぜんぶ抜く」っていうテレビの企画があるじゃないですか。あんな感じで、汚くて大きい池があって、外来種を全部釣って在来種だけにしようっていうボランティアをしている人たちが「外来種だ、殺せ! 卵も全部引き上げて殺せ!」ってやってるのを、そのボランティアには所属していない中年男性が見て、傷つくっていう話を昔書いて。
大前 それ、ハートフルなんですか?(笑)
高瀬 ボランティアの人たちは正義感をもって殺してるけど、傷ついたおじさんは夜中にこっそり餌をやるんです。それが見つかってドタバタあって、会社でも嫌なことがあって、池に飛び込んで死んじゃうっていう、そんなオチだったと思います。この話は賞に応募したけど落選しました。
大前 それは普通に怖い話だと思うんですけど(笑)。
高瀬 命を愛する気持ちみたいなテーマを書いたっていう意識からハートフルだと記憶していたんでしょうね。いま思い出したのでつい話しちゃいました。
『ドラえもん』はちょっと書いてみたいですね。もし書けたら裏でこっそりお送りします。
大前 ぜひお願いします(笑)。
2024年2月9日に往来堂書店にて行われたイベント「理不尽と同調圧力の扱いかた」を再構成しました