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「おめでとうございます」「お互いさまです」

 ——実際に受賞した後にお電話なさったときにはどのようなことを?

 鈴木 だから、その緊張が続いてましたね。

 ——どのような言葉をおっしゃってましたか?

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 鈴木 本当に普通ですよね、「よかったです」って。で、僕はついね、こういう言い方をしちゃったんです、「おめでとうございます」って。そしたら「お互いさまです」って、そんなことを言ってました(笑)。はい。

 ——もっとほかに「ありがとう」とか感謝の気持ち(言葉)っていうのはあったんですか?

 鈴木 いや。あんまり感謝しない人なんです(笑)。でも、なんかね、一緒にやってきて今年で46年目なんですけどね、とにかく作品そのものに関しては彼の力に負うところが多い。そういうことで言うと、僕はついね、彼に対していつもねぇ、基本的な態度として「こういう作品作ってくれてありがとうございます」って、つい言っちゃうんですよ。そうするとね、機嫌が悪くなるんです。「2人で一緒にやったじゃないか」って。それをいつも言われてね。僕は心の中で、「違う。あんたがやったんだ」っていうのがあったんですけど(笑)。ま、ようやく、この年になってそれを受け入れられるように僕もなりました、はい。

 ——先ほどトロフィーを3個注文されたとのことだったんですけども、なぜ3個なのか。

 鈴木 いろんな要望が出てくるんですよ。こういうところで使いたいとか、あそこで使いたいとか。そうするとね、僕は、この「千と千尋(の神隠し)」のときに知ったんですけれど、当時だと1ドル出すと余分に作ってくれるんですよね。

 ——1ドルでいいんですか。

 鈴木 そうなんです。それでまあ、宮﨑のところに1個、僕のところに1個あって。あとは回覧用に1個あると便利かなあと思って(笑)。それでついね、発表の瞬間の間際だったと思うんですけれども2個にしようか3個にしようか迷っていたんですけれども「3個頼む」ってアメリカに行ってるスタッフに伝えたところでした。「もし受賞したら」っていうことで。

 ——じゃあ合計3ドル出されて3個。

 鈴木 今は1ドルなのかどうかわかりませんけども。もっと高くなっていたら(発注数を)減らしますね(笑)。

映画「君たちはどう生きるか」より ©2023 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

 ——アカデミー賞という賞に対しての鈴木さんの思いは。

 鈴木 アカデミー賞っていうのはね、僕も、映画ファンの1人ですからね、注目して見ていました。作品を選ぶ基準が面白いんですよ。お客さんがいっぱい来るっていうのも1つの条件だけれども、もう1個、作品の内容なんですよね。アカデミー賞の歴史をずっと見ていくとね、非常に面白い選考基準があるんだなと。それからもう1つはね、いわゆるスタッフの受賞者っていうのがものすごく多いんですよね。本当に細かいところまで。例えば日本でもね、日本アカデミー賞っていうのを作ったとき、監督とか主演の人とか、それ以外のそういう人たちに目を配るっていうのはね、その影響だと思うんですよ。そういうことで言うと、歴史と伝統のあるアカデミー賞っていうのはね、「やっぱりすごいな」と。やっぱり思いますね。

アメリカの影響をいちばん色濃く受けた作品

 ——「黙示録だ」という話がありましたが、アメリカのメディアの評価が耳に入ることもあったかと思いますが、「ここは核心を突いている」と鈴木さんが思うようなものがあったか。

 鈴木 あんまり見ないようにしているんですよね。だから、アメリカでどう言われているのか、そして日本でどう言われているのか、両方とも知りません(笑)。ただ、僕自身はね、彼(宮﨑監督)のそばにいて、彼が何をやろうとしているのか、それはさっきも話しましたけれど、なんとなくわかるんですよね。それを僕が言葉で伝える、っていうのは僕の仕事だと思っていますから。(黙示録だと)そう言ったまでです。これで答えになるんでしょうか。はい(笑)。

映画「君たちはどう生きるか」より ©2023 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

 ——アメリカでの興行成績が実際に良いわけですが、メッセージとして伝わっているんじゃないかというふうに受け止めた?

 鈴木 まあ、僕らの若い頃、僕らの若い頃っていうのは1960年代なんですけれど、アメリカで聖書を元にした大作映画っていうのがいっぱい作られたんですよね。例えば、「十戒」とか「ベン・ハー」とか「偉大な生涯の物語」とか「天地創造」とか超大作って、全部聖書が元なんですよ。それで言うと、宮﨑駿なんかも、歳が違うといっても似たような時代を送ってきましたからね、そういうことの影響はあるんじゃないかと。

 それでまあ、宮さんっていう人は、本来いろんなところでそれを公言してましたけれどもね、「アメリカが好きか」って言われたら「好きとは思えない」。「なんでか?」っていったら「戦争で日本をやっつけた国だ」とかね(笑)。ま、そんなこともあったんですけれど。一方で、「じゃあ、日本は?」って言ったら、「負けちゃったから好きになれません」と。そうすると、ヨーロッパっていうことをね、常々(宮﨑監督は)口にしていたと思うんですけれども、彼の作るもの、それから自分が見てきたもの(を振り返ると)、なんかね、アメリカの影響が大きいなぁって、ずっと思ってたんですよね。そういうことで言うと、今回の「君たちはどう生きるか」は、いちばんアメリカの影響を色濃く受けた作品かなって。僕は思っています。

 ——「千と千尋の神隠し」から21年ぶりのアカデミー賞受賞ですが、そのときに比べて色々環境が変わって、宮﨑駿監督についてのアメリカの人のイメージもだいぶ変わったと思います。そのときと比べると今回はどういう(意味合いの)受賞だと思いますか。

 鈴木 映画っていろんな作り方があると思うんですけれど、なにゆえにこの題材でこういう作品をつくるのかっていう、要するに「時代性」っていうことですよね。宮﨑駿っていう人は、80代を迎えてもなおそれを忘れていない。僕は、映画の基本は「なんで今のこの時代にこの作品が必要なのか」、それをちゃんと考えるところ。で、今回もそれをやってのけたんだと思います。

『君たちはどう生きるか』第3弾ポスター画像 ©2023 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

 ——次の作品、今後はどういうような映画を作るように考えていらっしゃるのか教えてください。

 鈴木 それに関しましてはね、やっぱり、まだね、東宝さんを通じての映画の公開が続いています。そして、さっきから話題になっている海外なんですけれど、アメリカもね、まだ(公開が)続いていて、このアカデミー賞をきっかけにさらに、映画館の数が増えるみたいなんですよ。あとは中国。そういう興行が全部終わるまでは次に行くことが難しいんですよね。だから、まず今自分が抱えていること、それが全て頭の中で空っぽになるまで時間がかかるような気がしてます。そのうえで「もう1本作りたい」っていうことならその次の作品にとりかかるであろうというふうに僕は見ています。