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「怖くて嫌だった」母・樹木希林が必ずやっていたこと

内田 まあ、健やかな成育環境ではなかったのは確かですね(笑)。母が必ず私にやっていたことがもう一つあります。母の知人が亡くなると、お通夜に連れて行かれて亡くなった人のお顔を見せられていたんです。

「也哉子、顔をよく見なさい。このように必ず人間は死が訪れる。死があるから、生きているときは鮮やかに生きなければいけない」

 死が日常から隠されていく現代だからこそ、幼い頃から当たり前のこととして、そう言われてきました。ただ、私はそれが怖くて嫌だったの。最終的に、母自身も自らの死を家族に見届けさせるということをいわば有言実行したわけです。

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 本音は母の遺体を見るのも触るのもすごく怖かった。弔問に来てくださった人たちが母の名を呼びながら撫でたり抱きしめたりするのを見て、それができない私はなんて冷たい人間なんだと思いました。

 

 でも養老孟司さんにお話を伺ったとき、死の捉え方は人それぞれだからそれでいいんだと言ってくださいました。養老さんご自身は4歳でお父さんを亡くされています。臨終の際に「お別れを言いなさい」と大人たちに促されても何も言えずにいると、お父さんは養老さんにニコッと笑いかけ、パッと喀血して亡くなったそうです。

 それから40年ほどを経たある朝、通勤途中の地下鉄の駅のホームで突然、あのときお父さんにお別れが言えなかったから中学生や高校生になってもうまく人に挨拶ができなかったんだ、挨拶することを避けることでお父さんの死を思い出すまいとしていたんだ──そう気づいた途端に涙が止まらなくなって、このときようやくお父さんとのお別れができたように思えたそうです。

 今日子さんもご家族を亡くされましたが、そのお別れをどう捉えたか伺ってもいいですか。