今シーズンから新天地・ドジャースでの活躍が期待される、メジャーリーガーの大谷翔平(29)。彼の一挙手一投足に、日本だけでなく、世界中のファンが注目をしている。そんな大谷を日本ハム時代から10年以上追い続けているのが、スポーツニッポン新聞社MLB担当の柳原直之記者だ。

 ここでは、柳原氏が、番記者としての日々を綴ったノンフィクション『大谷翔平を追いかけて - 番記者10年魂のノート』(ワニブックス)より一部を抜粋。大谷翔平がメジャー移籍後にうけた“洗礼”とは——。(全2回の1回目/2回目に続く)

大谷翔平 ©文藝春秋

◆◆◆

ADVERTISEMENT

あわや完全試合の快投

 メジャー初安打から3日後の2018年4月1日。「今日は本当にただただ楽しく投げられた。マウンドに行く時も、一番最初に野球を始めてグラウンドに行く時の気持ちで投げられた」。初回2死、マット・オルソン(現ブレーブス)の初球に球場表示でこの日最速99.6マイル(約160.4キロ)を計測。テレビ表示は100マイル(約161キロ)だった。2ー0の2回に連打からチャプマンに逆転3ランを被弾した。甘く入ったスライダーで「少しひきずった」と言う。ベンチに戻ると、マイク・ソーシア監督に言われた。

「ここから抑えれば何も問題ないから」。切り替えた。2回以外は安打を許さず、逆転勝ちにつなげた。メジャー移籍後初となる100マイルを3度も計測し、力でねじ伏せた。花巻東時代に一度は志した最高峰のマウンド。「全体的にすごい楽しめた。そっちの気持ちのほうが緊張感を上回っていた。入りから最後までそういう気持ちだった」とはにかんだ。

 5度の実戦全てに失点した開幕前のイメージを払しょくした。好投の理由は「本当に、そこ次第かなという部分はあった」。“そこ”とは宝刀スプリット。渡米後最多の全92球中、24球を投げ込み、6三振のうち5三振はスプリットで奪った。

「ここで勝つ大谷はさすがだよ」

 試合後は日米報道陣が大挙して押し寄せたため、レイダースのロッカールームを急きょ借りて囲み取材を開催。初勝利のボールを手に安どした表情を浮かべる大谷の姿を見て、報道陣もみんな笑顔になった。ここ一番で結果を残す修正能力の高さと勝負強さには感銘さえ受けた。原稿の打ち合わせのために電話したその日のデスクも「大谷はさすがだ。ここで勝つのはさすがだよ」と興奮気味でなかなか電話を切ってくれなかった。