JR鶴見駅周辺にはかつて有名な立ち食いそば屋が何軒かあった。京浜東北線階段下には「屋島」があった。東口の階段を降りて右に行けば「五味酉」、左の交番の先には「ういーん」があった。鶴見っ子は朝、どこかに立ち寄ってそばを啜ってきたわけである。しかし、それはもう遠い昔のことになってしまった。
鶴見っ子の立ち食いそば事情
「屋島」は2009年1月に閉店。「五味酉」は2023年1月、最後の砦「ういーん」は2023年6月に廃業となってしまった。悲しいかな、立ち食いそば好きの鶴見っ子達は立ち食いそば難民と化し、啜れない日々に枕を濡らして過ごしてきたわけである。
ところが立ち食いの神様は見捨てなかった。2024年3月1日、ついに立ち食いそば難民の救世主的な店がオープンした。場所は東口駅至近の裏路地という立地だ。しかも、その店には素敵なanother storyがあった。さっそく訪問してみることにした。
その店はJR鶴見駅の東口階段を降りて交番の横を左(北)に進み1本目の路地を左に東西自由通路方向へ曲がったすぐ先の右にある「春夏秋冬」。到着するとそこはどうみても「浜ッ子寿司」という寿司屋である。
「浜ッ子寿司」のスタンド看板の上には、「座って食べれる立ち食い蕎麦」「3月OPEN朝6時~昼14時 春夏秋冬 お蕎麦・うどん」「温・冷トッピングも数種類ございます」「出汁は関東・関西の2種類になります」「浜っ子寿司のお蕎麦が復活!!」とびっしり書き込まれている。
なるほど、こちらは寿司の仕込みの合間を使って大将がそばを出しているのだなと推測した。ということは、寡黙で眼光鋭い頑固そうなオヤジがいて、燻銀のような声で「注文は……」と切り出されたら怖いなと、店前で少し躊躇した。しかし勇気を振り絞って古めかしい引き戸をガラガラと開けて店に入ってみた。すると「いらっしゃいませ~~」と透き通るような美声が響いてきた。「涙そうそう」を歌う夏川りみさんのような美声だ。意外な展開にちょっと焦りながら「あれっ大将は?」と尋ねると「午後まで来ませんよ~」と笑顔で答えてくれた。実はこの方が店主の加賀谷藍風(あいか)さんだったのである。
「春夏秋冬」開店後の状況は…
「春夏秋冬」は今年3月1日に開業した。開店後の状況を聞いてみると「やはり周辺に朝使えるそば屋がなかったのでありがたいといってくれるお客さんが多くて驚いている」という。やはりそうだったのか。