父・壮一(江口洋介)は家族を守るべく、任務を拒み続けている。仮の姿で酒蔵を営むが経営は火の車。母・陽子(木村多江)は家計の赤字を万引きでやりくり(忍びなので朝飯前)するが、報酬欲しさに夫には内緒で任務を単独で引き受けたりもする。
大学生の長女・凪(蒔田彩珠)は美術品を盗んでは返す愉快犯で、忍びとしての力試しに興じていた。祖母・タキ(宮本信子)は隠居した忍びだが、家を守る要としては現役。小学生の末っ子・陸(番家天嵩)だけは、俵家が忍びの一族であることを知らない。
そして、主人公は次男の晴(賀来)。兄の死に対して自責の念があり、今でも悪夢を見続けている。父と同じく任務を拒むが、酒蔵を継ぐ気はない。つまり長男が死んでから、一家は重い空気に包まれているというわけだ。
ほぼ全員主演級だが、それぞれが家族の役割をまっとうしながら気配を抑えることもできる座組に。ちょいと来し方を振り返ってみる。
賀来賢人が魅せる「優しさは弱さである」の原点
賀来は、もともとは中途半端な二枚目枠で研鑽を積んできた俳優だ。上昇志向の強い青年や思慮の浅い男、楽観にもほどがあるお調子者など、黙っているとただの二枚目になってしまうのは役者として弱点であり、その克服に鋭意努力してきた印象も。多彩な役を演じてきた中で、今回の晴役に繋がっていく要素があった。
朝ドラ『花子とアン』(2014年・NHK)では、ヒロインの屈折した兄・吉太郎を好演。貧しい農家の長男だが、優秀な妹や無責任な父、無力な母と、珍しく「長男優先主義ではない家庭」に育ち、アイデンティティの揺らぎから軍人を目指す。憲兵になって周囲から恐れられ白眼視されるも、本当は心優しい兄でいたかったはず。きょうだいコンプレックスの歪みを体現していた記憶がある。
個人的には、主演で最高傑作は『死にたい夜にかぎって』(2020年・TBS系)だと思う。うつ病と不安障害を抱えたエキセントリックな恋人・アスカ(山本舞香)との6年間を描いたドラマで、賀来が演じたのは作家志望の編集者・浩史。