「家族という欺瞞」
長兄・岳を演じた高良は、整いすぎた顔立ちで「正義」も「邪悪」も感じさせる役者だ。中途半端な偽善者役も秀逸だが、振り切った人間を演じるときのほうが殺気や悪意が滲み出る気がするんだよね。
今回は「家族という欺瞞(ぎまん)」に言及する役回りでもあり、この作品に痛みと凄みと迫力を与えている。
最後は末っ子の番家だが、彼の望みは「家族の一員」になること。忍びの一族と知らず、幼いながらも疎外感や違和感を覚えている役だ。劇中で連続バク転を披露し、忍びの素質アリと思わせたし、昭和の子役のような素朴さも残っている。
というわけで、俵家の面々がそれぞれの役割を果たし、矛盾や齟齬(そご)をきたしながらも「忍び」と「家族」の両立を体現していく。
「初恋モノ」「覇権争い」「社会風刺劇」
ホームドラマではあるが、観る人によっては重きを置く点が異なるかもしれない。
俵家に近づく雑誌記者・可憐(吉岡里帆)と晴は恋に落ちる。忍びは肉食も飲酒も恋愛もご法度とされる中、ふたりは惹かれ合い、やることはやるので、晴の「初恋モノ(初体験モノ)」という要素もある。
また、俵家は服部半蔵の末裔だが、敵対する風魔の一族、さらには鬼の門を守る忍びたちも登場。予想以上に多いので、忍びの世界の血で血を洗う「覇権争い」として観る人もいる。
そして、政治家が私利私欲で忍びを悪用したり、忍びがカルト団体を装って若者を集めたり、数に慢心して覇者気取りになったり。このへんの微妙に薄気味悪い要素は、平成から令和に続く日本の悪政や社会現象から取り込まれているようで、「社会風刺劇」の要素に興味をもった人もいるのではないか。
season1はいわば序章。権力の構図が変わり、忍びに価値観の変革が起きる気配も漂う。晴や凪が忍びの存在意義を自問する日がくるかもしれず。その先の妄想が膨らむ「忍びの家」、適材適所の脇役陣の細かい暗躍も含めて凝視したい作品だ。
ライター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News イット!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。