医学や健康の常識は、どんどん変わっている。昨日まで正しいと思われていたことが、いつの間にか誤りとなっていることも少なくない。古い知識のままで、間違った習慣を続けていると、かえって健康を損なわないとも限らない。
そこで、最新の研究成果や知見に基づき、医学と健康の新常識を98項目集めてみた。7回目は「薬の新常識」。高血圧やコレステロールの薬を飲んでいる人が多いはずだが、薬は飲み過ぎるとかえって毒になることもある。適切に利用するためにはどんなことに気をつける必要があるのか、専門家にアドバイスをもらった。
高血圧といえば薬(降圧薬)が付きものだが、その常識も変わりつつある。降圧薬は、「一度飲んだら一生やめられない」と思い込んでいる人が多いのではないだろうか。だが、降圧薬は一生飲み続けなければいけない薬ではない。確かに、血圧が下がらず、やめられない人が多い。しかし、年齢や体調によって血圧は変動する。その中には、血圧が下がって、薬が不要になる人もいるのだ。神戸学院大学栄養学部教授の駒村和雄医師が解説する。
「脂ぎった食事が好きだった若い人の中には、年をとって和食中心になるにつれ、血圧が下がり、薬を減らせる人がいます。お酒、タバコを控えるだけで血圧が下がる人もいますし、太っている人は運動して体重を5kg減らすだけで血圧が下がり、薬を減らせることもあります」
季節に合わせて薬と付き合う
それに、血圧は日中だけでなく、季節によっても変動する。金沢大学附属病院総合診療部特任教授の野村英樹医師が解説する。
「冬は血管が収縮するので、血圧が高くなります。しかし、暖かくなるにつれて血管が緩みやすくなり、血圧は下がっていきます。一錠か半錠ほどしか薬を飲んでいない人は、夏が近づくにつれて降圧薬が不要になることもあります。ですから、薬を飲んでいる人は1週間に2、3回でもいいので、ぜひ家で血圧をチェックしてください」
動脈硬化にともなう心血管病を予防するために、コレステロール低下薬(スタチン)を飲んでいる人も多いはずだ。だが、この薬も年齢に応じてやめられる薬だ。実は米国慢性期医学会が、「高齢者では、コレステロールが高いと心臓病や死を招くという明確な証拠はなく、逆にコレステロール値が最も低い高齢者のほうが、最も死亡リスクが高い」として、「75歳以上の人にとっては、心臓病の症状がない限り、スタチンはよくないかもしれない」と勧告を出している。
「高齢者はいろいろな病気を持っている人が多く、たくさんの薬を服用している人も少なくありません。薬の相互作用のリスクなども考えると、これまで心筋梗塞になったことがなく、糖尿病もない方は、優先順位を考えてスタチンの服用を見直してもいいでしょう」(野村医師)
スタチンには、筋肉痛や筋力低下などの副作用があり、転倒などのリスクも指摘されている。高齢者の転倒は手首や大腿骨骨折の原因となり、それが寝たきりのきっかけになることも多い。なので、スタチンを飲んでいる高齢者は、筋力低下にも注意してほしい。