あまり新聞やテレビでは報道されていませんが、昨年末、気になる論文が「欧州臨床栄養学雑誌」に掲載されました。日本人を対象にした研究で、卵を1日に2個以上食べる女性は、1日1個食べる女性よりも全死亡リスクが約2倍、がん死亡リスクが3倍以上も高かったというのです(Nakamura Y, et al. Eur J Clin Nutr. 2017 Dec 29.)。

 この研究は、食生活や喫煙歴といった生活習慣と、高血圧、糖尿病、心筋梗塞、脳卒中など循環器疾患との関係を調べる「NIPPON DATA90」という国の研究データを使って分析したもので、脳卒中・心筋梗塞を起こしたことのない30歳以上の女性4686人を15年間追跡した結果に基づいています。

 女性たちを卵の摂取量が週1個未満(203人)、週1~2個(1462人)、2日に1個(1594人)、1日1個(1387人)、1日2個以上(40人)のグループ(群)に分け、それぞれと病気との関連を調べたところ、卵の摂取量と血清総コレステロール値や心血管疾患死亡とは関連していませんでした。

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もう卵もマヨネーズもケーキも食べない!?

 ところが、全死亡やがん死亡については、上記のように関連するという結果が出たのです。また、週1~2個しか卵を食べない女性は、1日1個の卵を食べる女性に比べて、32%ほどがん死亡リスクが低いという結果も出ました。

 こうした情報を目にすると、「明日から、卵をたくさん食べるのはやめよう」と思う人が多いのではないでしょうか。極端になると「もう卵は絶対食べない!」「卵を使ってるマヨネーズやケーキも食べない!」という人もいるかもしれません。

日本人と卵は切っても切れない関係 ©iStock.com

 食品メーカーやお菓子屋さんにとっては、たまったものではありません。養鶏業者の方々にとっては、死活問題にもなるネガティブな研究結果です。もしかしたら新聞やテレビは、スポンサーである食品メーカーの意向を忖度して、この研究を取り上げないのかもしれません。

どのくらい証拠力のあるデータなのか?

 ですが、慌ててはいけません。こうした研究結果を見たときに大切なのは、これがどれくらい証拠力のあるデータなのかを冷静に判断することなのです。前回の記事でも紹介した通り、人を対象にした臨床研究の証拠力(信頼性)は、どんな方法に基づくかによって、レベルが決められています(国立がん研究センターがん情報サービス「ガイドラインとは」など参照)。

 今回、紹介したものは、「コホート研究」と呼ばれるものです。「コホート(cohort)」とはもともと、「歩兵隊」や「軍隊」などの集団を表す言葉で、臨床研究では特定の地域や集団(同じ年齢など)に属するたくさんの人たちを長期間にわたって追跡し続け、生活習慣や環境などと病気や健康状態などとの関連を調べる研究のことを意味します。

 臨床研究の証拠力の強さでは、「ランダム化比較試験(RCT)」と呼ばれる方法よりは下になります。今回のような研究なら本来は、何千もの人たちを対象に、卵を週1~2個、2日に1個、1日1個、1日2個以上食べるグループにくじ引きのような方法で無作為に分け、亡くなる人が出るまで数十年にわたって追跡し続ける研究が理想的です。

 しかし、多くの人に卵の食べ方を強要するような無茶なことはできません。なので、研究の対象となる人たちに、「どんなものをどれくらい食べているか」「運動はどれくらいの頻度で行っているか」「お酒やタバコの量はどれくらいか」といったことアンケートで聞いて、その後どうなったかを調べる次善の策が取られているのです。