今から66年前。1959年3月10日、東京都杉並区の善福寺川で英国海外航空(BOAC=現・ブリティッシュ・エアウェイズ)に勤めていた武川知子さん(当時27歳)の遺体が発見された。警視庁の捜査で重要参考人としてベルギー人の神父、ルイス・ベルメルシュ(当時38歳)が浮上したが……。

 当時の新聞記事は見出しはそのまま、本文は適宜書き換え、要約する。文中いまは使われない差別語、不快用語が登場するほか、敬称は省略する。(全3回の3回目/はじめから読む)

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「密輸」「謀略」……事件の「謎」出来上がる

 神父への捜査は難航し、膠着状態が続く中、6月12日付夕刊各紙の社会面トップにはこんな見出しが躍った。「ベルメルシュ神父が帰国 警視庁はショック」(朝日新聞。以下、朝日)、「捜査本部に通知なし 理由は病気療養」(毎日新聞。以下、毎日)、「スチュワーデス殺し迷宮入りか 解決の手がかり失う」(読売新聞。以下、読売)、「昨夜エールフランス機で」(産経新聞。以下、産経)……。

神父の突然の出国は人々を驚かせた(朝日)

 コンパクトな読売の記事を見る。

 3月のBOACスチュワーデス武川知子さん(27)殺しの重要参考人として高井戸署捜査本部から先月、5回にわたり取り調べを受けた杉並区八成町、ドン・ボスコ社のベルギー人ベルメルシュ神父(38)は11日、病気療養のためエールフランス機で突然ベルギーに帰国した。捜査当局にも寝耳に水で、「いまのところ、身辺捜査は打ち切っている」と言うものの、たとえ今後、武川さんと神父について新事実が出ても、裏付けができなくなった。神父の帰国によって、現在の捜査の見通しから、事件は迷宮入りの公算が非常に大きくなってきた。

 読売によれば、神父が主張したアリバイは同僚神父ら教会関係者によるものだったため、別の捜査からアリバイ崩しを進めていたところだった。