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最大の魅力は「数学の天才・石神」を演じる堤真一

『容疑者Xの献身』は、おなじみ『ガリレオ』の世界観を土台にしつつも、主軸は石神を中心とした濃厚なヒューマンドラマであるため、テレビシリーズを観たことのない人も単独作品として楽しめる。そして、最大の魅力は、なんといっても本作の主役とも言うべき数学の天才・石神を演じる堤真一の芝居だ。

 冒頭では「事件」が起こった悲劇的なシーンが描かれ、と同時に、隣の石神の部屋が映し出される。隣の大きな物音と悲鳴を気にする石神は、心配そうな様子で隣人・靖子を訪ね、ドア越しに声をかけると、ゴキブリだと靖子は引きつった笑いで言う。しかし、そこから、物語が動き出す。

事件を捜査中の内海らから石神の名を聞き、湯川は17年ぶりに会いに行く(『沈黙のパレード』公式Xより)

 湯川と石神は17年ぶりに再会を果たす。笑顔で手を振る湯川に、石神は一瞬驚き、顔をわずかにほころばせ、ぎこちなくほんの少し手を挙げて応じる。石神は湯川を部屋に招き入れるが、「数学以外興味がない男」らしく、机の上は本だらけ、部屋の中には紙の束を入れた紙袋だらけ。缶詰をつまみに出し、タッパー型の保存容器に氷を入れて酒を出す、いかにも合理的な暮らしぶりは、理系男性のドキュメンタリーを見るような趣がある。

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 湯川が「本物の天才」と認めていたにもかかわらず、石神が高校教師として、生徒が誰も理解できない数学の授業を孤独に続けているのは、やむを得ない事情からだったことがわかる。 「数学の研究はどこでもできる、場所は関係ない」と言うものの、その表情には虚しさや疲れがまとわりつく。

 そんな石神が束の間、静かで穏やかな表情を見せるのは、毎朝靖子の店で買った弁当を食べるときだ。石神は自ら事件に巻き込まれる形で、靖子とその娘に関わっていく。

 しかし、初めは二人を守るべく緻密な指示を出していたはずが、徐々に感情的になり…。靖子と娘を助ける石神は、頼もしく、優しく、ときに不気味で恐ろしく、どんどん見え方を変えていく。その一方で、枯れた表情には生気が少しずつ宿っていく。

石神の孤独と内に秘めた想いを圧巻の演技で見せた堤真一(『沈黙のパレード』公式Xより)

 物語は一見、湯川VS.石神という「天才VS.天才」の構図だ。しかし、実は厳密には対立ではなく、少し先を行く足跡を追う構図にも見える。かつて理解し合えた友が、今は追う者と追われる者とになり、理解できるからこその悲しみや葛藤もある。視聴者はそんな二人と少し離れた場所から物語を眺め、「天才だけが理解し、トレースできる天才の思考を一緒に辿っていく楽しみ」を得られるのだ。