――どんなきっかけがあったんですか?
ワサビ コロナ禍にClubhouseという音声SNSが流行ったのはご存知ですか? そこでマダムワサビとして、エンタメ寄りの所謂オネェのトーンで話していたら人気が出て、4500人ぐらいの人たちがフォローしてくださって、「これは仕事になるかもしれない」と自分で思えるようになりました。
オネェと言えば、毒舌じゃないといけないんじゃないかという先入観があったんですが、私はエレガントなキャラなんです(笑)。私みたいなオネェも受け入れてもらえて自信がつきましたね。
他にも大きな出来事があって、オペラ『カルメン』の中で、ヒロインのカルメンが歌う〈ハバネラ〉という曲があるんです。その曲をマダムワサビとしてフランス人合唱団と一緒に歌う機会がありました。さっき、「日本人の私が西洋人の男性の役を外国語で歌うことに違和感があった」とお話ししましたけど、ワサビではその違和感がなかったんです。
だから、「アジア人だからこれができない、あれができない」と感じている人に向けて、なにかメッセージが届けられるんじゃないかと思いました。共演した合唱団はアマチュアの方たちではありましたが、“フランス人の合唱団をバックに、日本人がフランス語の歌を歌う”というとても誇れることをしていると思えたんです。外国人の私がフランスの伝統芸能の世界で受け入れられたということですから。
――ある意味、オペラ歌手としての夢もかなったんですね!
「チャンスは自分次第でいくらでも作れる」
ワサビ もし、例えば「アジア系だから、白雪姫やシンデレラなど人種の違うディズニープリンセスにはなれない」と思っていても、自分の努力次第では違う形で夢がかなうかもしれない。私の場合はドラァグクイーンでしたけど、例えばコスプレとか、チャンスは自分次第でいくらでも作れることを伝えられるんだと気づきました。
ディズニー映画『リトル・マーメイド』のアリエル役を黒人のハリー・ベイリーが演じたことで、黒人の女の子たちを「私もアリエルになれるんだ!」と勇気づけたことと同じだと思うんですよね。
それに、自分が所属するコミュニティーの一員としての仕事もできているなと感じています。合唱団と一緒にハバネラを歌ったのは、行政主催のLGBTイベントのステージでした。LGBT、日本、そしてクラシック音楽のコミュニティーに貢献できているんじゃないかと思っています。
これはきっと私じゃないとできない仕事。最初はなんとなく始めたドラァグクイーンでしたが、今ではプロとしてやりがいを感じています。
――この先、ドラァグクイーンとしてかなえたい夢はありますか?