「姉の自死をきっかけに、『男らしくあろう』と家庭でも仕事でも頑張りすぎていたことを痛感した私は、セラピーの一環で女装をしてみたんです。男らしさの対極にある行為ですね。すると想像もしていなかったことが……」
議員立法として国会に提出されたLGBT法案。正式名称にあるように、性的指向や性の多様性について国民の理解を深めるのが狙いだが、当事者団体や保守的な議員らによる反発も強く、与党、立憲・共産・社民の案、維新・国民の3案が揃うという異例の事態となっているが、審議入りがいつになるかは不透明だ。
「生まれつきの性別は男性であるトランスジェンダーの女性トイレ利用や、スポーツの女子の大会に、身体能力は男性である人が出ることに繋がる可能性など、従来の女性の権利をないがしろにする危惧などもあり、与党内でも議論は紛糾しました。法律の条文のひとつひとつの言葉に気を遣わなければならず様々な懸念事項もあります。それだけ性についての実態は多様化しているということで政治が追いつくのもなかなか難しい問題となっています」(大手紙政治部記者)
性の在り方が広がっていくなか、インタビューに応じたのはクノタチホさん(40)。明るく染めた長い髪にナチュラルなメイクが似合っている。33歳頃までは、普通の男性として女性と家庭を持つなどして暮らしていたが、「女装」と出会ったことから徐々に男性と寝るようになり、性生活は一変したという。
「オートガイネフィリア」(自己女性化性愛症)――クノタチホさんは自らをそう定義する。聞き慣れない言葉だが、一説には日本に約70万人いるとされる、女装した自分自身に性的な魅力を感じる性的指向のことだ。女装するだけで満足する人もいれば、実際に男性と性行為をする人もおり、クノタチホさんは後者にあたる。
さらに恋愛対象は男女を問わない、いわばバイセクシャルでもある。外見は、男性のときと女性のときが半々なのだそうだ。複雑かつ新しい。
「男女300人と寝た」と豪語するクノタチホさんは、自らの豊富な経験と心理学的なアプローチで女性からの性の相談に乗るブログを運営している。毎月100万PV(ページビュー)を超えるアクセスを誇る人気コンテンツとなり大手出版社からの著作もある人物だ。取材をすると、まさに性の多様化を象徴する人物のように感じた。
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両親から求められた“経済的な男らしさ”
――まずは出身と幼少期について教えてください。
「滋賀県出身です。姉が2人いる末っ子の長男ですね。両親からは私が生まれるまでに、他に女の子を2人おろしたと聞いたこともあります。両親にとって待望の男の子だった私は『男らしくあれ』と育てられ、ちびっこ相撲に始まり、柔道を長い間続けていました。身長は170センチほどなのですが、体重は100キロを超えたこともあるくらい『おデブちゃん』でした」